2015年11月17日(火)、アダルトビデオのファン感謝祭「Japan Adult Expo(JAE)」で、AV女優の上原亜衣さんが引退を発表した。
多くのAV女優が1桁もしくは2桁の出演数で引退するのに対して、上原さんは5年間の活動で約1000本以上のビデオに出演した。
単純計算で年間約200本の作品に出演していたことになる。丈夫な身体と強い精神力を持ち合わせていないとこれだけ多く出演することはできないだろう。
上原さんといえば、『DMMアダルトアワード2014』で最優秀女優賞を受賞したのは有名な話だ。これはDMM.comが運営する日本最大級のアワードで、数多くの有名なAV女優が参加するビッグイベントだ。
ここで特筆すべきなのは、S級女優の証である「単体女優」ではなく、上原さんが「企画女優」だったにもかかわらずグランプリをとったことだ。
そもそも、AV女優というのは2つの階級がある。ひとつが「企画女優」もうひとつが「単体女優」
単体女優とは、AVメーカーと専属契約を結び、一人で(単体)でAVの作品に出られる女優のこと。メーカーのバックアップの下、デビューから盛大なプロモーションが行われる"S級"の女優です。なりたくても、簡単になれるものではありません。実際、単体女優としてデビューできるのは、ほんんの一握りです。
それ以外の大勢は企画女優。1本の作品に多数の女優が出演するオムニバス作品(複数の女優が出演する作品)も多い、素人ナンパもののAVや、乱交もの、SM系の凌辱ものなどの企画作品に出演する女優です。
そんな企画女優の中で、単体で作品に出演できる女優は「企画"単体女優」、通称・キカタンと呼ばれています。
上原さんは「企画女優」としてデビューし、のちに一人で作品にでる機会が増え「キカタン」と呼ばれるようになった。
そんな彼女が数多くの「単体女優」を追い抜き、日本一のAV女優となったのだ。高校野球でいうと、まったくの無名高校が甲子園で優勝するみたいな感じだろう(たぶん)
キカタン日記 無名の大部屋女優からAV女王に駆け上った内気な女の子のリアルストーリー
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上原さんがAVにデビューしたのは19歳のとき。保育士を目指して短大に通っていたときのことだ。知人の紹介でAV女優の仕事を知った彼女は、「自分に自信をつけたい」という理由でこの世界に入ることになった。
もともとAVの仕事は大学を卒業するまでのバイトだと決めていたが、ある人物の登場によって彼女の運命は大きく変わることになる。
AV女優としてデビューし、半年たったときのことだ。上原さんの所属する事務所に大型新人が入ってきた。彼女の名前は小島みなみ。いまも現役で活躍する売れっ子AV女優だ。
彼女は上原さんとは違い、「単体女優」としてデビュー。事務所が全面的にバックアップ。負けん気の強い上原さんはこれで火がつき、彼女に負けないためにあらゆる努力をしはじめる。
単体女優は企画女優に比べギャラも多いし、S級女優の証でもあるが、ひとつだけ欠点がある。
それは、決まった本数しか出演することができないということだ。ひとつのメーカーと専属契約をするため、月に一本しか出演することができない。
そこで上原さんは小島みなみをはじめとする「単体女優」に勝つためにあるひとつの大きな決断をする。
それは「あらゆる作品に出ること」だった。
AV業界には「NG事項」というものが存在する。レイプNG、アナルNG、縛りNGなど、自分のやりたくないジャンルはNGを出せる。しかし、NGが多ければ、作品に出演できる機会が減ってしまう。
ゆえに上原さんはNG項目を減らし、自分に来た仕事は断らないというスタンスで挑むことになったのだ。
しかし、それだけでは単体女優との差を埋めることはできない。「単体女優」と「企画女優」にはそれほど大きな差があるのだ。
そもそも彼女はデビューするとき、AV女優として恵まれた身体の持ち主ではなかった。歯並びは悪く(現在は矯正済み)、バストはCカップ(現在はEカップ)、スタイルも決していいわけではなかった。
そこで自分にしかない武器を身につけようと思い立ち、あるジャンルに挑戦しようとする。
今さら容姿は変えようもないので、私は見る人がビックリするような「性戯」を極めようと思いました。それなら努力次第で、なんとかなりそうだったので...。
そこで狙いをつけたのが、「潮吹き」でした。当時の私は、あらゆるAVを見て研究していたので、潮吹きブームがやって来そうな予感があったんです。
のちに「潮吹き」は彼女の代名詞となるのだが、この「潮吹き」をマスターするまでのプロセスがすごい。レンタルビデオ店であらゆる「潮吹き」と名のつく作品を借り、勉強。さらに毎日自分の身体で「潮吹き」の猛特訓。
この特訓により「潮吹き」を自由自在にあやつれるようになり、「潮吹き女王」という大きな肩書きを手にいれることができた。
彼女のストイックさを表すエピソードはこれだけではない。
一時期ネット上で上原さんの整形疑惑が出たときがあった。周りはこう言った。「デビュー当時の写真と今の顔が違いすぎる」と。上原さんはこの疑惑を打ち消すためにあるジャンルの企画に出演する。
ちなみに、ネットでは"鼻がおかしい"なんて書き込みもありましたけど、何も入れてませんよ(笑)。その証拠に、私の出演するSM系作品を見てください。"鼻フック"をNGにしていないんです!鼻にフックをかけられて"ブタ鼻"にされるやつです。実はあれ、整形をしていたら、入れたシリコンがずれちゃうんですよ。あえて「鼻フック」に挑んでいたのは、整形疑惑を払拭するためでもあったんです(笑)
いやもう「すげぇ」の一言に尽きる。 「そんな理由で鼻フックしたんかい」とおもわず言いそうになる。しかし、彼女にとって整形疑惑を払拭させることは大事なことだったのだろう。
この業界は入れ替わりが激しい世界で、毎年のように女優さんが引退していく。それは知っていたが、やっぱり身体的にも精神的にもハードな仕事なんだなぁと再認識させられた。
というのも上原さんも月に25日ぐらいの撮影スケジュールを組んでいたときは身体を壊していたからだ。
当時の私は月に25日ぐらい、撮影のスケジュールが入っていたんです。AV撮影のない日も撮影会や雑誌のインタビューなどがあるので、ほぼ年中無休状態。有名になるためなので、さほど苦とも思いませんでしたが、体はボロボロでしたね。毎日、ハードなSEXをしていれば、アソコも痛くなってきます。この頃は、撮影前にローションを3本分ほどアソコの中に仕込んでおくこともありました。ローションでたっぷり濡らしておかないと、痛くて仕方なかったんです。(中略)
そのうえ、撮影は早朝から深夜まで続くことが大半です。睡眠時間は1時間程度の日なんてザラでした。(中略)
喉の粘膜が傷ついて扁桃腺が腫れやすくなり、しばしば高熱が出るようになってしまったんです。ひどいときは、朝起きたら40度近い熱があって、現場にすら行けない。なんとか行けたとしても、現場で倒れてしまったりもしました。
いやもうブラック企業やんけ!とおもわず言ってしまいそうなスケジューリング。とはいえ、それくらいストイックにやり続けないと、この世界で生き残っていくのはむずかしいことなんだろうなぁとも思わされる。
このストイックの姿勢を貫いた結果、冒頭にも書いたとおり、『DMMアダルトアワード2014』で最優秀女優賞を受賞した。「テッペンとったし、さあこれから!」というときに上原さん自身にあるひとつの感情が芽生えた。
「なんのためにAVに出るんだろう」
持ち前の負けん気の強さとストイックな性格でここまで突き進んできた上原さんだったが、だんだん撮影に身が入らなくなってきた。そう、彼女は目標を見失ってしまったのだ。それはトップをとったことによる喪失感でもあった。
こうして彼女は引退を決意し、2015年11月17日(火)に引退を発表した。
こうやってみると、「上原亜衣は超人だ!」と思うかもしれないが、そんなことはない。どこにでもいるフツーな女の子で、この世界に身を置くならではの悩みもかかえている。
両親には、いまだにバレていません(と、自分では思っています)が、もし両親が、私がAV女優をしていたことを知ってしまったら...悲しむに決まっていますし、そのことを想像すると、やはり胸が苦しくなります。自ら選んだ道なので、私は何を言われようと構わないんですが、父や母、祖母、妹にも何かしらの形で迷惑がかかる可能性もあるのです。
いえ、それだけではありません。私にも結婚願望はあります。もし、私の過去を知ったうえで人生を共にしてくれるという男性が現れたなら、結婚もしたいし、子どもだって欲しいのが本音です。でも、その一方で、もし自分の子どもが私の過去を知ったら、そのときに、なんて説明するのかと聞かれると、答えに窮するのも事実です。黙っていてもいいけど、私がAV女優であったことは消せない過去です。どこから、どう伝わるか分かりません。自分の母が元AV女優だったら、子どもはどう思うでしょう。そんなことを考え始めると、やっぱり不安で仕方なくなるんですよね。(中略)
AV女優になって、得たものもたくさんありましたけど、失ったものも大きかった。そういった意味では、後悔がないと言ったら嘘になります。
上原さんはすでに友達バレも恋人バレ、どちらも経験している。しかし、家族には言っていない(妹には言っている)。
AV女優の紗倉まなさんは、母親から自分の出演した作品のフィードバックをもらう間柄だが、これは特殊な家族だ。上原さんのように家族には秘密にしているケースがほとんどだろう。AV女優がなかなか理解を得られない職業であるのもまた事実である。
本書はフォトエッセイで、文量もそんなに多くないからサクッと読める。また読みたい一冊だった。