会場変更という厚い壁を崩せなかったのは残念だ。2020年東京五輪・パラリンピックのバレーボール会場について、東京都の小池百合子知事が既存の横浜アリーナ(横浜市)活用案を断念し、現行計画通り「有明アリーナ」(江東区)を新設する方針を表明した。
同アリーナは大会後、民間事業者に運営を任せるという。ただし、これで小池氏が提起した3会場見直し問題は全て現行計画通りの場所で決着することになった。
「大きな黒い頭のネズミがいっぱいいることが分かった」
今月2日の記者会見で、報道陣が一連の会場見直しに関して「大山鳴動してネズミ一匹ではないか」と質問すると、小池氏は「失礼ではないか」と気色ばんで、こう反論した。「黒いネズミ」とは五輪の経費を歯止めなく膨らませた人間を指すのかもしれない。
確かにこの問題にメスを入れ、経費圧縮に向かったのは評価したい。しかし当初目指していた会場変更に至らなかった点は小池氏もきちんと総括する必要がある。
例えば、横浜市が「競技団体の意向を重視すべきだ」と「横浜アリーナ」案に否定的な文書を都に提出していたにもかかわらず、小池氏が「横浜市の方にも賛同していただいた」と一時、説明していた一件だ。
小池氏が文書を目にしたのは都庁の担当部局に届いてから1週間近く後だったという。会場見直しは小池氏が選んだ有識者らによる調査チームが主導してきた。そんな中、小池氏は足元の都庁組織を把握し切っていないのではないかと疑問を抱く。
ボートとカヌー・スプリント会場についても、「長沼ボート場」(宮城県登米市)案がどんな経緯で見送られたのか、説明は乏しい。情報公開は小池都政の大きな柱だ。都合の悪い話には口をつぐむのでは困る。
敵をあぶり出して戦う姿をアピールする。都知事選以来の小池氏のスタイルは、かつて小泉純一郎元首相が見せた「小泉劇場」になぞらえて「小池劇場」とも言われてきた。
最近も小池氏は自民党との対決姿勢を強調し、自らが主宰する政治塾から来夏の都議選で独自候補を擁立する意向を明らかにする一方、公明党との連携にも意欲を示している。都政に関しても次々と新しい方針や政策を打ち出し、依然として注目度も期待度も高い。
だが、築地市場(中央区)の豊洲(江東区)移転問題をはじめ、決着が先延ばしになっている重要課題もある。戦うパフォーマンスだけではなく、具体的な結果が求められる時期に早くも入っているということだ。それは小池氏も承知のはずだ。