ダ・ヴィンチニュース「アニメ部」

細田守、新海誠、片渕須直。アニメ作家の時代始まる「アニメ映画が面白い!」第3回

■邦画アニメ興行収入、過去最高の2016年

2016年は、日本のアニメ映画にとって特別な一年になった。まず新海誠監督の『君の名は。』の大ヒットを、誰も忘れられないだろう。興行収入205億円突破(2016年12月11日時点)は日本映画史上第2位、その上には宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』しかない。
しかし、アニメ映画の好調は『君の名は。』だけではない。2016年公開の邦画アニメの総興行収入は、12月初旬の段階で、過去最高だった2001年の505億円(日本動画協会調べ)を軽く突破する。さらに12月10日には映画『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』が公開、17日には人気アニメの最新作『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』が公開するから、さらに数字は伸びる。

2001年の数字を引っ張った『千と千尋の神隠し』の興行収入304億円、現時点で『君の名は。』と約100億円の差がある。つまり2016年の躍進は、『君の名は。』だけでなく、他のたくさんのヒット作に支えられた。
例えば『名探偵コナン』。4月公開の『純黒の悪夢(ナイトメア)』の興収63億円は、シリーズの10年前と比べて約2倍だ。『ドラえもん』、『クレヨンしんちゃん』、『アンパンマン』など、アニメ映画の定番シリーズが、ここ数年で軒並み動員を伸ばしている。

2016年のもうひとつの話題は、作家性の強いアニメ監督と作品の成功だ。大ブレイクした新海誠監督も、『ほしのこえ』以来、独自のスタイルで多くのアニメファンに支えられていた。『映画けいおん!』で一躍注目された山田尚子監督は、障がい者といじめという難しいテーマに挑んだ『聲の形』で高い評価と22億円を超える興収を実現した。
そして、片渕須直監督。構想から8年、クラウドファンディングも交えた話題づくりで制作を実現したのが『この世界の片隅に』である。アニメだけでなく、実写映画の関係者からも絶賛を浴び、圧倒的な口コミで、公開後は4週間連続で興収が前週を上回る異例の展開だ。次々に大きな才能が飛び出した。

■「時をかける少女」から10年目、細田守の存在感

しかし、作家性の高さとなれば、欠かすことの出来ないのが細田守監督だ。2015年に『バケモノの子』を公開したばかり。2016年は新作はなかったが、『時をかける少女』10周年をはじめ、その作品やビジュアルを目にする機会がこれまでになく多かった。
圧巻は10月25日から9日間開催された東京国際映画祭の特集企画「映画監督 細田守の世界」である。いくつものトークイベントも交えて、細田守監督の軌跡を一望する企画は、映画祭の目玉となった。10年間の長編映画の積み重ねが、“細田守”の存在を強く印象づけるようになった。

東京国際映画祭には、『君の名は。』、『この世界の片隅に』も上映。図らずも細田守、新海誠、片渕須直の3監督が揃った。映画祭と連動した文化庁映画週間のシンポジウム「劇場アニメ最前線~君は映画を信じるか」には、片渕須直監督と2017年に『ひるね姫〜知らないワタシの物語〜』の公開を控える神山健治監督、『BLAME!』と『GODZILLA』を監督する瀬下寛之監督が登壇。ここにも才能が集まり、日本アニメ映画の豊かさを感じさせた。

■日本アニメ映画、黄金時代に突入か

2013年、日本を代表するアニメ監督である宮崎駿が長編アニメの制作から引退を発表した。スタジオジブリも2014年公開の『思い出のマーニー』以降、長編アニメの制作をしていない。長年、日本の劇場アニメを支えてきたスタジオジブリの不在は多くのアニメ関係者に不安を与えた。
先行きが不透明だからこそ、次々に挑戦があり、それが成果に現れたのかもしれない。そして2016年11月、NHKで放送された番組内で宮崎駿監督の引退撤回発言が伝えられた。新しく現れた才能たちに対抗するかのようだ。宮崎駿監督がどのような作品に挑むかは、まだ分からない。しかし、日本のアニメ映画は、黄金期に突入したと、思わせる激動の2016年であった。

<数土直志>
ジャーナリスト。アニメーション関する取材・執筆、アニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」、「アニメ産業レポート」執筆など。2002年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。



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