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時代小説家や研究者が頼りにする 価値の高い史料を集めた店
老舗が並ぶ靖国通り沿いの中で、一見すると左右の古本屋に挟まれて少し窮屈そうな小さな店。しかし、古書店を外見だけで判断してはいけない。店主の小野塚健さんはこう話す。 「本の在庫はこの何十倍もあるんだよ。店はまあ、見本みたいなものかな。ここにある本も、明日には倉庫に送られる」
慶文堂の創業は1956(昭和31)年。当時は大学を出ても就職先は知れており、自分で商売をはじめることにチャンスが溢れていた、商人全盛の時代だった。 「私は、大蔵大臣もやった渋沢敬三先生の書生だったんだよ。財界人でありながらも自身の民俗学的な興味を追求し、かつ人間的にも素晴らしい人だった。この分野に興味を持ったのは、その環境がきっかけ。書生を辞めた後、しばらく神田の古本屋で修行をして、それから自分の店をはじめるようになった」
その後、歴史関係を店の中心に据え、史料的価値の高いものをどんどん集めるようになった。今は図書館や博物館など公の機関をはじめとして、研究者など専門のお客様が多い。中でもユニークなのは、時代小説などを書く小説家や、研究書の著者など、本を書く側の人が多く買いに来ることだ。 「たとえば時代小説で槍を使うシーンを書くときに、そのころどういう槍がどのように使われたのか、そういうことをきちんと調べて書く人と、適当に書いてしまう人がいる。前者のきちんと調べる方が、うちのお客様。松本清張さんはまさにそうで、『今日中に集めてくれ』とかいう無理難題をよくおっしゃられた。でもそれに応えるために、あっちの倉庫からこっちの倉庫へと奔走することに、やっぱりやりがいを感じるね」
その収集力は、長崎のことを書こうとわざわざ長崎の書店まで史料を探しに行った作家が「それなら慶文堂に行ったほうがいい」と言われてしまった、というエピソードも残っているほどだ。これからの若い人には、ぜひ勉強してほしい、と小野塚さんは言う。 「本当にきちんと調べたいという人には、できる限りの協力をするよ。もちろん商売でやっているわけだけれど、それ以上に文化的な意義というか、それを支えることに誇りを感じているから。とにかく、史料集めに対する情熱は、50数年やってきた今も変わらないね」
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| 『日本荘園成立史の研究』 |
| 阿部猛(著)/雄山閣/昭和35年 |
| 小学生でも日本史で習う、荘園制を研究した専門書。序文には、律令制から荘園制への変化を古代から中世への転換期と捉えた少数派の論だと書かれている。 |
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