【ワシントン会川晴之】米国防総省は16日、米海軍の無人水中探査機がフィリピン沖の南シナ海で15日午後、中国側に奪われたと発表した。米国は外交ルートを通じ、即時返還を求めているが、中国側はこれに応じていない。「一つの中国」政策に疑問を投げかける発言をしたトランプ次期米大統領に対抗し、中国は今月に入り爆撃機を南シナ海で飛行させるなどのけん制行動を繰り返している。これを機に、米中間でさらに緊張が高まる可能性がある。
国防総省のデービス報道部長によると、無人水中探査機が奪われた場所は、フィリピンのスービック湾から北西50カイリ(約90キロ)の地点。米国は公海と主張している。
米海軍が民間に運用を委託する海洋観測船「ボウディッチ」所属の探査機2機が、海中の温度や潮流などを調べる業務中、中国軍の潜水艦救難船と見られる軍艦が接近、小型ボートを下ろして探査機1機を収容した。「ボウディッチ」は、中国の軍艦に無線で連絡を取り、即時返還を求めたが、中国側は取り合わず「通常業務に戻る」と無線で伝え、立ち去った。
デービス氏は、探査機の作業は「機密とはほど遠い内容」と説明しているが、収集したデータは、米軍が「対潜水艦作戦を進める際に使う」と述べている。
トランプ氏は今月2日に台湾の蔡英文総統と電話協議したほか、11日放送のテレビ番組で「一つの中国」政策に疑問を投げかける発言をしている。米中両国が1979年に国交を回復して以来、歴代政権が守り続けてきた政策を見直す姿勢を見せたことに、中国は警戒を強めている。