賃金の下落に合わせて年金支給額を引き下げる新たなルールを盛り込んだ年金制度改革関連法が参院本会議で可決、成立した。
年金は与野党が折に触れて激しく対立してきた国政の課題だ。今回も民進党は「年金カット法案」との批判に終始し、「将来の年金水準確保法案」と応酬する与党との議論はかみ合わなかった。
成立した改革法は、物価より賃金が下がった場合に賃金に合わせて減額すること、デフレ時にも「マクロ経済スライド」という年金給付を抑制する制度を実施することが柱だ。
成立したからといってすぐに年金がカットされるわけではない。あくまで賃金や物価が下がった時のための措置である。年金は現役世代の賃金や物価と連動しており、賃金が下がっても年金が高いままだと将来の給付水準が低くなりすぎる。それを避けるために必要な改革である。
それにもかかわらず民進党が反対に執着したのは、国民の年金に対する不信や不安の根強さがあるからだろう。政府・与党の国民に対する説明も十分だったとは言い難い。
ただ、政府案を批判するならば代案を示さなければ議論は深まらない。民進党は年金の抜本改革を国会審議の中で求めたが、まずは自らの改革案を示すべきである。
かつて民主党は税財源で国民すべてに月7万円の最低保障年金を支給する案を掲げていたが、必要な財源を含めて詳細な制度設計について明らかにしなかった。政権を握った3年間も具体的な改革案が示されることはなく、現在に至っている。
国民の疑問に応えるために、各党が年金のあらゆる論点や自らの改革案を提示して徹底論議する場を作ってはどうか。
2005年には年金を集中議論する両院合同会議が計8回開催されたことがある。厚生労働相経験者を含む各党計35人の国会議員からなる会議の議論は多岐にわたった。「郵政解散」の前に民主党が会議を脱退したため結論を得るには至らなかったが、今日に至る年金の論点の大半が議論されたと言ってもいい。
その後、社会保障国民会議の論議や、厚労省が5年ごとに実施している年金の財政検証によって議論の基になるデータも豊富にある。両院合同会議のような場があればもっと具体的な議論が行われるはずだ。
将来も安定した給付を続けるためには今後も年金の本格的な改革をしていかねばならない。
与野党は批判し合うよりも改革に向けた知恵を出し合い、社会保障に関する認識を共有すべきだ。建設的な議論を重ね、国民の理解を得ることが制度改革の土台になる。