来年1月に発足する米国のトランプ新政権で外交や安全保障を担う陣容が明らかになった。

 国務長官には米石油大手エクソンモービルの最高経営責任者ティラーソン氏が起用された。資源開発をめぐる国際的な経験や手腕が評価されたようだ。

 特にロシアのプーチン大統領と長い親交がある。プーチン氏の指導力を称賛するトランプ氏の意をくんだ人選であり、冷え込んだ米ロ関係の打開へ向けた外交シフトが鮮明になった。

 ただ、次期政権につきまとう不安は拭えていない。それは、外交を商談と同一視しているのではないかという疑念だ。

 商取引と違い、外交は数字では測れない。単純な利益ではなく、原則を守る責任が問われることを忘れてはならない。

 ティラーソン氏は、クリミア半島を一方的に併合したロシアへの制裁に反対した人物だ。プーチン政権がさらに強権化し、秩序に挑むのを押しとどめられるか、懸念せざるをえない。

 「ディール(取引)」で自国に有利な回答を迫る。そんなトランプ氏の外交観は、中国と台湾をめぐる言動にも透ける。

 1979年の断交後、次期大統領として初めて台湾の総統と電話協議した。その上で中国の通貨・貿易政策などを批判し、米中関係の土台である「一つの中国」政策に疑問を呈した。

 これが「米国第一主義」を追求するための交渉カードだとしたら、アジア太平洋の安定を米国自らが揺らすこととなり、同盟の信頼も失いかねない。就任前でも軽率というべきだ。

 次期政権には、最近まで軍幹部だった面々も目立つ。国家安全保障担当の大統領補佐官に就くフリン氏は元陸軍中将。国防長官と国土安全保障長官には海兵隊の元大将が起用された。

 フリン氏はイスラム教を敵視する発言を繰り返してきた。人種差別的な発言が問題視されたり、テロ容疑者に対する「水責め」を擁護していたりした人物も政権入りする。人権軽視の風潮が強まらないかも心配だ。

 環境長官には、オバマ政権の地球温暖化対策に反対してきた人物を選んだ。政権が代わったからといって、国際社会が築いた合意を一方的に破棄すれば、米国の信頼は傷つく。

 新閣僚を承認する上院をはじめ、米国議会は政権の独走を防ぐ役目を十分果たしてもらいたい。トランプ氏も、目先の国益よりも、「法の支配」や人権重視など普遍的な原則を掲げて国際社会の求心力を得る方が、長期的に米国の利益につながることを理解すべきである。