すれ違いぶりが際だつ、両首脳の共同会見だった。

 安倍首相が焦点を当てたのは北方領土問題を含む平和条約締結。一方、ロシアのプーチン大統領の関心は日本の経済協力。

 その溝は深い。

 プーチン氏が共同会見で領土問題にからんで強調したのは、1956年の日ソ共同宣言だ。平和条約を結んだ後、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の2島を日本側に引き渡すとされ、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)への直接の言及はない。

 さらに歯舞、色丹を引き渡すにしても、ロシアの主権を維持する可能性にも触れた。4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶという日本の立場とは大きく食い違う。

 プーチン氏は日米安保条約にも言及。引き渡し後の島に米軍基地が置かれることへの警戒感をあらわにした。日本としては受け入れられない主張だ。

 首相が「平和条約締結に向けた重要な一歩」と胸を張った、4島での共同経済活動も具体的な中身はこれからだ。

 かつて何度か検討されたが、日ロどちらの主権を適用するかが問題とされ、そのたびに立ち消えになってきた。ロシア側は今回も「ロシアの法律に基づいて行われる」と明言し、早くもかみ合っていない。

 「戦後71年をへてなお、日ロの間に平和条約がない。異常な状態に、私たちの世代で終止符を打たなければならない」

 首相はそう意気込むが、今回あらわになったのはむしろ、交渉の先行きが見えない現実だ。近い将来、大きな進展が見込めるかのような過剰な期待をふりまいてはならない。

 日ロ間に横たわる戦後処理の決着をめざす首相の姿勢は、理解できる。首脳同士が信頼を育むことは、地域に安定をもたらすうえでも意味がある。

 同時に、日本が忘れてならないことがある。「法の支配」をはじめとする普遍的な原則をゆるがせにしてはならない。

 2014年のロシアによるクリミア併合を受け、日本も欧米とともにロシアに経済制裁を科すなかで、日本は今回、ロシアへの80件もの経済協力で合意した。二国間の信頼醸成には役立つだろうが、制裁を続けるG7の足並みを乱し、「法の支配」の原則を二の次にしたロシアへの急接近と映らないか。

 米国の次期大統領にトランプ氏が当選し、国際社会は米ロ関係やシリア問題の行方に目をこらしている。領土問題は重要だが、決して焦ってはならない。外交の原則を崩さず、粘り強く解決をめざす姿勢が肝要だ。