“衝撃”のゲノム編集、作物は食卓に並ぶのか?

「新しい育種技術」の可能性と課題(前篇)

2016.12.16(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要
ゲノム編集技術が世界で普及すれば、農業、畜産、水産業などをとりまく状況、そして私たちの食をめぐる状況は、大きく変化するかもしれない。

 今年あたりから、「ゲノム編集」という言葉が世間でよく聞かれるようになった。

 一般書も出ている。『ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー』(NHK「ゲノム編集」取材班著、NHK出版)や『ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃』(小林雅一著、講談社現代新書)などだ。

 共通するのは「衝撃」という言葉が使われていること。ゲノム編集の何がすごいのか。

『ゲノム編集の衝撃』に序文を寄せたノーベル賞受賞者の山中伸弥氏は、「技術として簡単であること。成功率が高いこと。いろいろな生物に適用できること。上記の3点が揃った生命科学技術というのは、これまでには他に存在しませんでした」と述べ、同氏が基礎研究に携わった25年間で「おそらく最も画期的な技術ではないか」としている。

 よく引き合いに出されるのが遺伝子組換えだ。こちらは「生物の細胞から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質をもたせること」(厚生労働省パンフレット)。

 遺伝子組換えの技術的な壁は、手間がかかることにあった。細胞内にある何万もの遺伝子の中から、狙いの遺伝子に偶然、外来遺伝子が入って作用するのを待つしかないのだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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