2011年2月7日
伝統的な子育てが情動育む
親学推進協会理事長の高橋史朗氏が講演
教育の原点は家庭にあり、「親が変われば子どもも変わる」を合言葉に「親学」の重要性が叫ばれている。特定非営利活動法人(NPO法人)「沖縄の教育を考える会」(崎山用豊会長)はこのほど、親学講演会を開催、親学推進協会理事長で明星大学教授の高橋史朗氏が「脳科学にもとづく親学−発達障害は予防・改善できる」をテーマに講演。子供の発達障害の多くは家庭環境に原因があり、予防・解決は可能だと指摘した。以下は講演の要旨。
(那覇支局・豊田 剛)
発達障害も予防可能
講演する親学推進協会の高橋史朗理事長=1月22日、沖縄県立博物館・美術館講堂(那覇市)で
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教育・学習の土台は家庭教育、親が問題となる。沖縄では、摘出第一子がいわゆる「できちゃった結婚」で生まれた割合が42%もある。全国では25%だ。20歳から24歳までに限れば全国で3分の2は「できちゃった結婚」の子供である。親から愛されたことがないから、どうやって自分の子供を愛したらいいのか分からない。これは切実な問題である。
米国では、父親が仕事と家庭の役割を認識している。日本でも父親が子育てを認識する必要がある。
仏教慈徳学園(横浜市の公的補導施設)では、毎日6時間、銘石と呼ぶ自然石を磨いているが、子供たちは「僕の人生を磨いていきたい」と言って立ち直っていく。そこでは乾拭き掃除なども実践している。人間として規則正しい生活をすれば心が正常になる。基本的な生活習慣を確立することが重要である。
内閣府の調査によると、6カ月以上家に閉じこもっている「ひきこもり」の人口は70万人おり、将来発症する可能性のある予備軍は150万人に達する。ひきこもりのうち、30歳代が占める割合が46%にもなる。日本の将来を考えれば憂える状況である。
また、ひきこもりの約3割が、自閉症やアスペルガー症候群の「広汎性発達障害」である。特徴は(1)社会性の障害(2)コミュニケーションの障害(3)そして特定のこだわり−である。環境と固体の相互作用、すなわち、遺伝と環境要素が重なり合って引き起こされる。広汎性発達障害は「関係障害」とも言われる。
埼玉県は3年前、発達障害を予防し、大幅に減らすと宣言した。そこで、発達障害の予防、早期発見、早期支援、教育支援の4種類の部会を開き、具体策を検討している。子供の発達障害を早期発見し、早期支援することが大事だ。それは、子供との関わり方を知ることである。
東京都教育委員会の調査によると、小学校の通常学級で情緒障害児が5年間で2・5倍増加している。東京の小学生の15%は発達障害だとも言われている。沖縄では最近、三つの県立高校特別支援分校ができた。多くの教師は発達障害の児童に対応できずに辞めていく。単なるしつけの問題でないため、注意しても直らないのだ。
発達障害が急増しているが、そのほとんどは環境的要因によるものだ。これまでの常識では、発達障害は先天的な脳の障害と思われていた。ただ、環境要因で発症した障害は予防・改善できる。それは親の関わり方、応答関係がない環境を変えることで改善できる。たとえば、子供は夢中になってテレビを見るが、それは親にとってはその方が楽だからである。しかし、それでは言葉が発達せず、コミュニケーション能力が発達しない。
埼玉県の草加市子育て支援センターによれば、発達障害の相談をした人の約半数しか医師による診察・診断を希望していないという。その最大の原因は、親が子供の「障害を受任」できないことにある。発達障害児の親支援最大の課題はどうやって障害を受け入れるかである。子供の特徴を受け入れ、子供の思いを理解するすることで、子供の障害を受け入れることにつながる。
発達障害は文字通りの「障害」ではない。英語ではdisorderと言うように「失調」であり、「発達上の個人差・特性」と受け止めるべきだ。単にマイナスと捉えてはいけない。
文部科学省の脳科学検討会は「脳は生涯発達する」と言っている。数年間何に対しても反応もしなかった障害児が、和太鼓の音を聞いて初めて反応したケースがある。体操、音楽、言葉のリズムを体験することによって脳が活性化する。これは、神経伝達物質のセロトニンが増えたからだ。セロトニンは幸福の源で、これが欠乏すると発達障害になる。
発達障害を予防するには、昔ながらの普通の育児環境を取り戻すことである。さまざまな科学者が、豊かな言葉がけで目を見て話し、あやしながら笑わせるなどの伝統的な子育てが大切であると強調している。スキンシップや笑いが情動を育てるのだ。ある研究によると、伝統的な子育てを実践した結果、自閉症児の2歳以下の11人のうち10人が8カ月以内に健常児の状態になった。
教育の原点は、自己発見し、自尊心を持つようになり、自己統制できるようにする。そうして初めて「自分らしさ」を実現するのだ。「有難い」とは「難が有る」と書く。困難があることがありがたいと捉えるような「観の転換」が重要になる。