どうなる?たばこ“新ルール” 広がる波紋
何が変わる? たばこ“新ルール”
皆さん、ご存じでしょうか?
オリンピックとたばこ、実は深い関係があります。
「たばこの無いオリンピック」を掲げるIOCの意向を受け、開催国は喫煙を法規制するのが通例となっているんです。
例えば、ブラジルやイギリスでは、学校や病院といった公共施設だけでなく、飲食店は全て禁煙。
罰則付きの法律で厳しく定めています。
では、日本はどうかというと…。
たばこの自動販売機に興味津々のこちらの女性。
WHO世界保健機関のジュディス・マッカイさんです。
東京のたばこ事情を視察するためにやって来ました。
マッカイさんの目に、東京はどう映るのでしょうか?
WHO世界保健機関 上級政策顧問
ジュディス・マッカイさん
「変わっていますね。
こうした場所を他の国では見たことがありません。」
都内でよく見られる喫煙スペース。
屋外での分煙は、世界にほとんど例がなく、進んだ取り組みと評価を得ました。
ところが、次に訪れたレストランで、その評価は一変しました。
この店では、たばこを吸わない客のために、喫煙スペースから煙がもれない分煙に力を入れています。
「これはエアカーテンといって、下に風が出ています。
煙を外に出さないように。」
これに対し、マッカイさんは「屋内では煙の拡散を十分に防ぐことはできない」と厳しい意見を口にしました。
WHO世界保健機関 上級政策顧問 ジュディス・マッカイさん
「喫煙エリアの煙による影響を100パーセント防ぐには、竜巻並みのエネルギーが必要です。
『完全な分煙』など不可能です。」
日本の法律では、建物内の禁煙はあくまで「努力義務」。
罰則もなく、世界でも遅れていると言われているんです。
WHO世界保健機関 上級政策顧問
ジュディス・マッカイさん
「日本のたばこ対策は、世界でも最低レベルだと思います。
日本にとってオリンピックが開かれる2020年までの4年間に、たばこ規制を制度化することは、とても重要な目標だと思います。」
日本の対策に注目が集まる中、今年(2016年)10月
厚生労働省が受動喫煙防止に関する法律のたたき台を発表しました。
役所や運動施設などの公共施設は、建物内禁煙に。
学校や病院では、より厳しい、敷地内禁煙。
そして、飲食店や遊技場は、原則建物内禁煙。
完全に区切られた喫煙目的の部屋であれば、設置が認められるというものです。
違反した場合は「罰則」を適用するという、これまでにない厳しい案となっています。
厚生労働省 健康課 課長 正林督章さん
「世界の常識を日本の常識にしていくという意味はあるかなと思います。
まず『ちゃんと守って下さい』とおすすめをし、それでダメな場合は命令『守りなさい』。
それでもダメな場合は罰則をかける。
より実効性の高いものにするというのが大きな違いです。」
“たばこルール”厳格化!? 広がる波紋
ところが、このたたき台が波紋を広げています。
病院や大学、飲食業界の関係者を集め、公聴会を開いたところ、反対の声が次々と上がりました。
中でも強い危機感を表したのが飲食業界。
喫煙客が減り、売り上げが低下することを懸念していました。
日本フードサービス協会 業務部
部長 石井滋さん
「かなり経営的には厳しくなってくる。
中小零細のお店にあたっては、閉店を余儀なくされる可能性もある。」
原則禁煙に反対する店の1つ、東京・新宿にある、カラオケバーです。
客の8割が喫煙者という、このお店。
常連客から「たばこが吸えなくなれば、店に来ない」という声が上がりました。
常連客
「飲んで(たばこを)吸いたいです。」
常連客
「今ですら吸えない飲み屋さんがあって、そこには行かないもん私。
どんなにいいお店と聞いても行かない。」
9坪しかないこちらの店では、喫煙室を作るスペースや資金に余裕はないと言います。
では、店内が禁煙になった場合、客はどこでたばこを吸えるのかというと…。
飲食店 店主
「喫煙できるとなると、駅前になっちゃう。」
条例で路上喫煙を禁止している新宿区。
飲食店 店主
「あっちのロータリーの中ですから。」
100m先の喫煙所まで歩かなければならないのです。
飲食店 店主
「酔っ払った方が何回も往復されるというのは、ちょっと厳しいですね。
(建物内禁煙になると)かなり不安ですね。
他の店舗もそうだと思います。
勘弁してほしい。」
どうなる?たばこ“新ルール” 広がる波紋
オリンピック開催を契機にわき起こった新たな禁煙ルールの議論。
新たなルールのたたき台をもう一度ご紹介しますと、公共施設が建物内禁煙もしくは敷地内禁煙。
居酒屋やパチンコ屋さんなど、遊技場でも喫煙室の設置は認めているものの、原則禁煙という案が公表されました。
かつて、たばこを吸っていたゴリさんはどう思う?
ゴリさん:もうここまで厳しくなると、やめてよかったなと思うぐらい、吸っている側はつらいですね。
だって僕、スタッフとか、周りで吸っている方も多いですけれども、昔なんて自由で、どこで吸おうが文句を言われなかったですが、もう喫煙場所を探しては狭い所でギューギューで、サラリーマンの方が吸っていたりするとかわいそうに見えます。
(現時点でも厳しい?)
ただでさえ日本って僕は厳しいと思ってたら、先ほど日本は他の国に比べたらルールが一番ゆるい国だというのに驚きました。
身近な例でどうなるのか 例えば居酒屋さんの外の敷地内だったら吸ってもいいと思う?
ゴリさん:OKにしましょうよ。
僕は何なら居酒屋の中でもOKにしてほしいというか、居酒屋とたばこって、いわゆる当たり前というか、居酒屋でたばこが吸えなかったら、どうすればいいんだろうというか。
体育館を使っていいけど、スポーツ禁止って言われているみたいな感じで、そんなバカなって思っちゃうんです。
マンションのベランダは?
ゴリさん:ベランダで吸っている方も多いですよね。
赤ちゃんがいるとか、奥さんが嫌だとかでベランダで吸う友達も多いので、ベランダもOKにはしてほしいですよね。
では、たばこ新ルールのたたき台をいっぺんに見ていきましょう。
居酒屋さんの外の敷地内は?
望月さん:お店の中は禁煙であっても外はギリギリOKかなということなんですが、ゴリさんがおっしゃった、居酒屋とたばこは分けられないだろうという議論なんですが、世界で初めて全国の禁煙法を作ったアイルランドも同じ議論になったんです。
パブと煙は分けられないと思ったら分けられたということを保健省の方がおっしゃっていました。
パブ文化は残って、しかも禁煙できる。
次の新幹線もだんだん禁煙になってきています。
今、残っている喫煙車両は、今回のたたき台の中では、たばこが吸えなくなる。
ただし喫煙室は残されていると。
(マンションのベランダは?)
既に共用部分と見なして規約で禁煙にしているところもあると思います。
ただ、このルールの中では、この議論はほとんどされてないと思います。
ですので、ケースバイケースか、これからアメリカなどでは、集合住宅の禁煙も進んでいる所もあるので、これからの議論を待つところだと思います。
街で新ルール案をどう考えているのか聞きました。
100人のうち賛成が67人、反対は32人と、新たなたたき台を好意的に受け止める人が多かったんです。
番組でも意見を募集し、1万5,000を超す声が寄せられました。
「『吸っていい?』と聞かれても断れない。法律で最初から禁止してほしい」と支持する意見が多い一方で、「やりすぎ。たばこが違法でない以上、愛煙家の楽しみを奪わないでほしい」と反対する意見もありました。
各地で波紋を呼んでいる新ルール案なんですが、日本で唯一のたばこ製造販売企業である、日本たばこ産業JTはどう見ているんでしょうか?
JTのCM『分煙の取り組み』
“この国で私たちがつくりたいのは、『分煙』の進んだ社会。”
これまで社会的なマナーの観点から分煙を推し進めてきたJT。
取材に対し、受動喫煙対策の必要性は認めた上で、それぞれの事業者が選択できる仕組みが重要だと答えました。
JT 日本たばこ産業株式会社 執行役員 福地純一さん
「喫煙室を設置するということ。
時間帯で分煙にするということ。
エリア分煙をするなど、さまざまな手法がある。
飲食店や施設管理者の皆様が、自らできるメニュー、それを後押しする仕組みが大事。」
JTの見解は「『分煙』を選択できる仕組みが重要」「議論してバランスの取れた規制を」
望月さん:これは、世界と日本の喫煙の規制に関する比較です。
ジュディス・マッカイさんがおっしゃっていた世界は厳しめだけど日本がゆるめ。
最低レベルだというのは屋内に関してなんです。
世界はなんでこういうふうに厳しくなっていったかというと、受動喫煙の害に対する健康のリスクが前提となって、特に屋内の禁煙規制から始まっていった。
日本はどうかというと、JTがおっしゃるように、迷惑とかマナーということで言われてきたんです。
これは、たばこ産業自らがリスクの問題、健康の問題をマナーの問題に置き換えて、ここからスタートしたということがあると思います。
ですので、前提がそもそも間違っているということが、日本の遅れている1つの原因だと思います。
(今回の新ルール案では、屋内も厳しくなる?)
それは世界と同じに健康のリスクを前提にした時に当然、屋内の禁煙を求めていこうという流れになります。
ここまで厳しくしようとする背景には、健康リスクというものがあるんです。
健康問題として考えなければならない研究結果が出ているからなんです。
ついに日本も動く? 受動喫煙のリスク
がんに関する調査・研究の国内拠点、国立がん研究センター。
ここでは、この30年間に発表された「喫煙とがん」に関する、400本以上の論文を国際的な統計手法を使って分析。
国立がん研究センター がん登録統計室長 片野田耕太さん
「肺がんのリスクが高いと初めて示した。」
「受動喫煙による肺がんのリスク」が、日本人を対象にした研究では初めて「確実」なものになったと発表しました。
夫婦のどちらかが、たばこを吸っているケースでは、たばこを吸っていない夫婦に比べ、受動喫煙によって、肺がんで死亡するリスクが28%アップすることが分かりました。
さらに、脳卒中や心筋梗塞などの死亡リスクも20%以上高まることが明らかになりました。
国立がん研究センターは、たばこを吸っていなくても、受動喫煙によって死亡する人が、年間1万5,000人にのぼると推計しました。
国立がん研究センター がん登録統計室長 片野田耕太さん
「(受動喫煙の)健康被害に関する議論がずっと続けられてきて、その結果、対策があまり進まなかった。
今回、健康被害について科学的な結論は出たので、世界に比べると、遅れてはいるけれど、ようやく対策の議論がきちっとできるようになった。」
健康のリスクに加え、現在の分煙では受動喫煙を十分に防げないと訴える研究者もいます。
産業医科大学の大和浩教授は、たばこから出る煙がどれだけ拡散するかを調査しています。
喫煙者との距離は、およそ2m。
一見、煙は届いていないように見えますが、微小な粒子を可視化できる特殊なレーザーを当てると、たばこの燃焼によって発生したタールの微粒子が広がり、離れて座る相手まで届いているのが分かります。
また、喫煙エリアが分かれていても、歩く時にできる気流が煙を外に連れ出すことも分かりました。
産業医科大学 教授 大和浩さん
「屋内でたばこを吸うと、その数メートルの範囲にいる人たちは、吐き出された煙を、そのまま吸うことになりますので、非常に高い濃度の暴露を受けます。
いったん部屋全体に拡散してしまうと、そこの空間に存在している人が、みんな暴露を受ける。」
どうなる?たばこ“新ルール” 広がる波紋
ゴリさん:いや、衝撃的ですね。
年間1万5,000人の方が亡くなられているんですか。
受動喫煙の影響は、かねてから言われてきたが、今回は何が違う?
望月さん:2つありまして、1つ目は、何となく害があるんじゃないかというところから、はっきりと「死亡」の形で表したこと。
それから今、3つの疾患が表題に出てましたけど、それぞれ3割もリスクを上げる。
それから2つ目は、これまで言われてきたのは、海外の日本人のデータも含めての評価はされてきて、10年前にもう議論は終わってたんです。
ところが、日本人だけ特殊なんじゃないかという議論もあって、日本人の研究だけを取り出して、再評価をしてみたら、海外と同じ結果が出た。
その2つの意味で意味があると思います。
(今回は日本人だけの結果だから確証があると?)
そうですね。
だから、もう待ったなしの状況だというスタートラインにようやく立てたと。
禁煙したものの、まだたばこを吸いたくなるゴリさん、どう思う?
ゴリさん:ベランダで吸っていれば大丈夫って、友達みんな言っているのに、ベランダで吸って、部屋に入る移動の瞬間に煙が部屋にポッて入ってきていたじゃないですか。
そうなると完璧に防ぐって、じゃあどうすればいいんだろうという。
喫煙者がかわいそうに見えてきます。
では、こちらをご存じですか?
ゴリさん:芸人からスタッフから、みんな、それ吸っています。
これは加熱式たばこなんですけど、たばこへの逆風が強まる中、たばこ会社の中には、健康に配慮したという、この新製品を開発し、生き残りを図ろうとする動きもあります。
話題の「加熱式たばこ」 “新ルール”ではどうなる?
若者の街原宿で毎日行例ができるほど、人気の商品があります。
それが、この加熱式たばこ。
「ぐっとまっすぐラインの手前まで差し込んでください。」
火をつけるのではなく、電気を使って、たばこの葉を温める仕組みです。
メーカーの発表では、燃焼で生まれる有害物質を大幅にカットしたとされ、発売以来2年間で200万台を売り上げています。
客
「タール?90%軽減みたいなことが書いてあって試してみようと思った。
子どももいるので、その方がいいかなと思って変えた。」
この会社では、従来のたばこの生産を徐々に減らし、将来的には加熱式たばこの販売に専念する方針です。
フィリップ モリス ジャパン
副社長 井上哲さん
「最終的には従来の紙巻きたばこをお吸いの方も、できるだけ多くの方が(加熱式たばこに)切り替えていただくことを目指している。」
予想を超える加熱式たばこの大ブーム。
従来のたばこは吸えなくても、加熱式たばこであれば使用を認める飲食店も出てきました。
「こんにちは。」
こうした店舗を増やそうと、このたばこ会社では、全国の飲食店組合を回り、営業活動に力を入れています。
「これを是非導入して、広めていっていただければ。」
フィリップ モリス ジャパン 副社長 井上哲さん
「規制の議論が進んでいることは認識しております。
私どもが求めるのは、従来の紙巻きたばこのルールとは違う、別の加熱式たばこのルールを作っていただきたい。」
どうなる?たばこ“新ルール” 広がる波紋
加熱式たばこにおける受動喫煙の健康リスクは、現時点でどこまで言える?
望月さん:実際に吸った方から出ているのは、ニコチンとかアセトアルデヒドなどの有害成分を含んだ蒸気で、これは水蒸気ではありません。
ですので、ニコチンの依存性もありますので、決して害がないとは言えないレベルが出ていると思います。
ゴリさん:今日スタッフが吸っていたので「やっぱり全然違いますか?」って言ったら、「これ画期的ですよ。たばこの臭いつくの嫌じゃないですか。全く臭わないですよ、いいですか」って、顔にフーッてやってもらって「あぁ全然臭わないっすね」って言ってたんですけど、僕、受動喫煙していたんですね。
厚生労働省たばこ新ルール案は、来年(2017年)法案提出を目指すとされているんです。
オリンピックということで、東京だけではなく、全国のことなので、みんながみんな納得するには難しいのでは?
望月さん:これから段階を経て、受動喫煙の害、能動喫煙の害、やめられない方への対策などを講じていく中で国民的な合意が出てくると思いますし、それからビジネス上、影響のある方たちへのどういう保障があるのかということも、これから熟議が求められると思います。
それから何よりも選択できない人たち、そこで働く方たちとか、選択できない環境に生まれる子供たちのために大人が責任を持って、たばこの害のない世界を作り出す第一歩だと思います。
ゴリさんは、元愛煙家としてはどう思う?
ゴリさん:「たばこのない世界」とまで言われると、たばこの良さを知っていた自分としてはつらくてですね。
だから、やっぱりたばこの良さも僕は知っていたので、受動喫煙の煙がどれだけ届くかとか、どれだけ体に悪いというのも見せられると、喫煙者が端に追いやられるんじゃなくて、うまい具合に吸っていない方にも害の及ばないような、何かいい社会作りが生まれたらなと願うだけです。
一緒に考えていく、一人一人が考えるということがこと大事?
望月さん:そうだと思います。
それはお互いの健康、お互いの命、それから次の世代にどういう社会を設計していくのか、そのスタートラインだと思います。