光を使って、水から水素などの資源を作り出す「人工光合成」。実用化にはまだあと数十年ほどかかりそうですが、CO2を排出せずにエネルギーや材料を生産できる技術として期待されており、大学などの研究機関に加え、トヨタ自動車グループなど民間企業による研究もさかんに行われています。

分子触媒による人工光合成の実験風景(提供:首都大学東京)

 「人工光合成は、CO2を排出することなしにエネルギーや材料を生産できる近未来の技術であり、わたしたちが生き残っていくためには不可欠です」と強調するのは、首都大学東京・人工光合成研究センターのセンター長を務める井上晴夫特任教授です。

 植物などが行う自然の「光合成」は、光を使って水とCO2からデンプンなど、植物が自らの成長に必要な栄養分と酸素を作り出す仕組みです。これに対し、人工光合成は、天然の光合成の働きをすべて再現するわけではありません。井上特任教授が監修した書籍『夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か 世界をリードする日本の科学技術』(講談社)では、太陽光(可視光)を使うこと、水を原料にすること、光エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄える「エネルギー蓄積反応」により、炭水化物、水素、その他の高エネルギー物質を生成するこことと定義しています。
 
 井上特任教授によると、現在、国内外の研究機関で進められている人工光合成研究の方向性は、おおむね次の3種類に分かれます。

(1) 天然の光合成の使用
 シアノバクテリアなどの光合成を行う生物を活用。遺伝子操作などによって、水素をできるだけ大量に生成させる研究などが進められています。

(2) 半導体触媒の使用
 水の電気分解において、電極に用いた二酸化チタンなどの半導体に光を当てると、水が分解されて半導体電極から酸素が、別の電極から水素が発生する「ホンダ-フジシマ効果」を応用。水素の生成に加え、アンモニアの合成を研究する動きもあるそうです。

 「触媒」とは、特定の化学反応をうながす物質です。(2)の場合、水の分解という化学反応をうながす半導体が「触媒」にあたります。

(3) 金属錯体・色素分子触媒の使用 
 金属錯体や色素分子を触媒に採用。水素の生成に加えて、水とCO2を使って人造石油の原料になるCOなどを生成する研究が行われています。なお、井上特任教授は、この(3)の分野の研究で、従来よりも光に対する反応性が高いアルミニウム-ポルフィリン錯体を開発。今後もさらに高い反応の実現を目指しています。