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リアルでレベル上げしたらほぼチートな人生になった 作者:三木なずな

第二章 (書籍版第二巻収録分)

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第七十一話 「第三の嫁 / 風呂場三分の計」

「くくく、華があって実によろしい。惜しむらくは手折る者が同席していないということじゃな」
「そんなのにいられちゃたまらないわよ」

 揺籃は皓白に反発している。とは言えそれは一方的揺籃が皓白の言葉に反発しているだけで、幼き老女は相手の反論などどこ吹く風だ。

 そんな二人のまわりに、琴音、鈴音、風音、そして青葉がいる。

 女達は裸だった、一糸まとわぬ、生まれたままの姿である。

 なぜそうなっているのかというと、ここが風呂場だからだ。

 太陽城と名付けられた建物、かつては共同住宅として設計したその建物は住人がまとめて入ってもなお余裕がある様な風呂場を設計した。

 そこに女達全員が一遍に入浴していた。



 夕食のあと、皓白の提案で全員一緒に風呂にはいる事になった。

 せっかく集まったのだから親睦を深めよう、と言うのが名目だったが、太陽を一人にしたいがために提案したのは誰の目に見えてもあきらかだった。

 夏野太陽はまわりがまったく見えなくなる程の熟思に入っていた。三姉妹と青葉が買い物から戻っても、皓白の協力という名の足手まといで食事が作られても、それを揺籃が大好評で口にしても。

 その間彼はずっと、上の空で考え込んでいた。

 もしも三姉妹が止めていなければ、彼は箸でつまみ上げた醤油瓶を咀嚼して飲み込んでいただろう。

 そんな事を思わせる程彼は夢中に、心ここにあらずだった。

 当然、なぜ彼がそうなったのかと、その場に居合わせなかった三姉妹は訊ねた。それに皓白は「太陽一家のターニングポイントじゃ」と答えた。三姉妹がやはり訳が分からなかった、一大事であるという事だけは理解したので、太陽の邪魔だけはしない様にと行動した。

 そこまでは全く問題はない。

 実際のところ、太陽がここで考え抜いて出した答えが彼女達の将来に深く関わるであろうことは間違いないし、皓白はそれを正しく認識して、そのサポートをしていた。

 問題は、その後の事。

 家の中でうろちょろされては太陽の邪魔になると、彼女は全員を無理矢理風呂に誘ったのだ。



 そんな事があって、女達が全員風呂場にいた。

 風呂場だけあって、全員が生まれたままの姿だ。

 皓白の「華がある」というのはまったくの冗談ではない、事実、ここにいる女達はみなすばらしい魅力を持った女達ばかりだ。

 皓白はその名の通り、この場でもっとも白い肌をしていた。凹凸に乏しい子供の様な肢体は一見して青い蕾を連想させるが、目を凝らしてみれば濃厚な蜜を垂らした様な大人の色気を放っている。

 三姉妹もいわば発展途上の肉体である。しかし細い肉体の上に可憐な膨らみが控えめに存在を主張していて、庇護欲を掻きたてる愛らしさがある。

 ほどいたポニーテールをアップにまとめた青葉はもっとも健康的な体つきをしていた。つんと上向きの胸は極上の宝石を連想させ、手元に置いて長らく愛でたいという欲に駆られる魅力がある。

 そして、長い髪がまるでマントの様に全身を包む揺籃。桃のような双峰も薄絹のような繊毛も、それらが彩る完璧なプロモーションはさながら芸術品の様で非の付け所がなく、美しさと艶やかさが高いレベルで同居しているような肉体だ。

 そんな彼女達が一堂に会した大浴場、華がある、というのはむしろ控えめな表現だとすら思えてくる。

「あの……皓白さん」
「手折る者って言うのは太陽さんの事ですよね」
「私たち……明るい所でそういうのはちょっと」

 そう言って、身を寄せ合う三姉妹。

「くくく、それは冗談じゃ。旦那様は今それどころではない、とても手折りに来るどころではないのじゃ。見たじゃろ、あの旦那様を」
「まっ、それもそうね」

 皓白の言葉にいち早く割り切ったのは揺籃だった。彼女はまるで自分のプロポーションを誇示するかの如く、背筋をピンと伸ばし、湯煙の中心で傲然と佇んでいた。

 まるで見られる事になれているような、見られても何とも思わないようなたたずまいである。

 彼女はそうして、三姉妹の事をマジマジと見つめている。

「しっかし、あんたらは本当に面白いよね。顔は一緒なのに、体のサイズはてんでばらばら。これで顔の大きさが同じなら気持ち悪いけど、三人とも上手く体にあった大きさなのよね。なんていうか……七五三?」

 厳密にそれは違うのだが、体つきに違いが出るようになってからさんざん似た様な事をいわれてきた三姉妹はすぐに彼女が何を言いたいのか理解し、特に腹を立つ事もなかった。

「だって私たち三つ子ですから」
「はい、同じように見えるのは当たり前です」
「何でサイズだけ違うのは私たちにも分からないですけど」
「昔からそうだったわけ?」
「ううん、こうなったのは小学校に入ってからです」
「どういうわけか成長の速度に差が出たんです」
「それまでは普通の三つ子でした」
「ねえ、ずっと気になってたんだけど。あなた達って前はそういう喋り方をしてた?」

 話の横から割り込んで、質問を投げかけてきたのは青葉だった。彼女は揺籃とは正反対で、この場に同性しかいないというのに、タオルと手で大事な所を隠していた。

 恥じらう彼女に、皓白が聞き返す。

「そういえば、おんしはこの娘らといつからクラスメートだったのじゃ?」
「中等部からずっと。昔の早川さんはそんな話し方してなかった、ちょっと前まで、今年に入ってもそんな話し方をしてなかったはずよ」
「それは……」

 琴音が言いかけて、三姉妹同士で視線を交換した。答えるべきか、と悩んでいるような仕草だ。

 しばらくして、彼女達は意を決して青葉に向き直って、それから口を開いた。

「あれはよそ行きの喋り方だったんです」
「そう、『おれ』とか乱暴な喋り方をする人がちゃんとする時は『わたし』って言うのと同じように」
「私たちも、そういう喋り方、よそ行きの喋り方をしてたんです」
「つまり、今のが()だということ?」
「「「はい」」」
「……そうするようになったのは、夏野くんのせい?」
「「「はい、太陽さんのおかげです!」」」

 青葉の表現を強めの口調で訂正する三姉妹。太陽のせいではなく、太陽のおかげ。彼女らにとってそれは譲れない所のようだ。

 彼女達がそんなやりとりをしている傍ら、いち早くおしゃべりから抜け出した皓白はこの場に相応しいことをはじめた。

 木製の風呂椅子に腰掛けて、手のひらの倍はあるスポンジにボディソープをつけて体を洗った。みるみるうちに泡がたち、桜色の肉体を覆っていく。

「あんたの肌って本当白いね、なんかの彫像みたい」
「恐悦至極じゃが、おんしの方こそ彫像にみえるのじゃ。そのプロポーション、同じ女として嫉妬してしまう位じゃ」
「そう? こんなの別に気にした事ないけど」
「ふむ、今まで褒めてくれたものはいなかったのか?」
「あたしの外見を褒める命知らずはいないわね、まっ、そもそも正体を他人にみせる事ってほとんどないし」
「だとしたら、末恐ろしいのじゃ」

 皓白は体を洗いながら、はあ、とため息を吐いた。

「花は丹精を込めてこそ綺麗に咲く、というのは分かるじゃろ」
「そっちの花ならね」
「それは何も植物に限った事ではないのじゃ。過日の人間はなぜ女を花と例えた、それは女が花と似ている性質があまりにも多いからじゃ。水をやらねばしおれるし、愛情を込めれば込める程綺麗に咲き誇るものじゃ」
「へえ?」
「もっと俗っぽい言い方をしよう。女は恋すればするほど美しくなる、恋している最中は女性ホルモンを分泌し、体が自ら綺麗に変わっていくのじゃ。そして女性ホルモンが最も分泌されるのは、やはり愛されているときなのじゃよ」
「成程ね」
「それを考えれば、何も無しにその美しさのおんしは末恐ろしいのじゃ。それで男の手が入ったらどれだけ美しくなる、と考えるとな」
「そんな事を言う割には言葉にうらやましさも悔しさも感じないんだけど?」
「ないものねだりをする程若くはないのじゃ、それに、今はこの体に誇りを持っているからな」
「誇り?」
「うむ、旦那様に綺麗だと言ってもらって、愛してもらった体じゃ」
「……」

 揺籃は口を真一文字に引き結んだ。皓白とのやりとりで、彼女の方が逆に悔しさを覚えてしまったからだ。

 皓白が見せた余裕、体のハンデをものともしない余裕は彼女の目にまぶしく映った。

 何より、皓白は彼女の事を綺麗だと言ったが、揺籃には皓白の方が美しく見えた。ほとんど平地に近い桜色の頂きは泡の中に隠れ、お世辞にも色気のある肉体だといえない恒娘の体。だのに、揺籃は目の前にいる女が今まであったどの女よりも色っぽく見えてしまった。

(もしも……)

 脳裏にある思いが芽生える。それは雪解けの季節にみる、わずかな萌芽のようなもの。

「おっと」

 それが育つのはまだ早い、と天が言おうとしているのだろうか。皓白が使っていたスポンジが彼女の小さな手からすっぽ抜けて、放物線を描いて飛んで行った。

 ペタッ、という音を立てて、スポンジは揺籃の胸にあたって、それから地面に落ちた。

 彼女の完璧な体に、スポンジは爪痕を残していった。桜色に染まった乙女のシンボルに、白いぬめりが付着するのだった。
緊急の仕事が入りましたので本日は早めの更新となります。

※2014/12/11 1:58追記
本文の一部にひどい矛盾がありますが後ほど修正します。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません。

※2014/12/11 5:57追記
ミスにミスを重ねて申し訳ありませんでした。
余分のパートを削除、本文修正しました。
重ね重ねご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
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