自動車を運転する人には最近、携帯電話でメールを書いたりソーシャルメディアに目を通したりして、うつむいている様子がよく見られる。信号で止まる人もいるが、携帯をいじりながら運転し、目の前の物理的な世界よりも魅惑的に思えるデジタル世界に気を取られている人もいる。
この様子を見るに、筆者は2つのことを考える。ドライバーがいかに危険な振る舞いをしているかが1つ。2つ目は自動車が自ら運転する時代が来たら、なぜ車など買う人がいるのか、ということだ。
独フォルクスワーゲン(VW)が12月5日、「MOIA(モイア)」という新ブランドを創設することを決めたときにも、同じ考えが頭をよぎった。モイアはポルシェやアウディなど傘下ブランドのような自動車を生産するためではなく、輸送サービスを提供するためのブランドだ。最初の取り組みは、電気式のワゴン車を使って当初はドイツで運用する配車型通勤シャトルサービスになる。
米フォード・モーターなどほかの自動車メーカーと同じように、VWは「モビリティー(移動)」を、自動車生産と並ぶ会社の未来の大きな部分と見なしている。フォードのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は最近、同社は常に「モノについてと、我々が売ったそのモノの数について考えてきた」と語った。これからは、フォードは物体だけでなくモビリティーも売る。
■ウーバーとバスの中間
これらのメーカーは、米ウーバーテクノロジーズによって追い込まれた面もある。ウーバーは都市部での配車サービスを極めて便利で比較的安価にしたために、自動車所有に取って代わり始める可能性がある。
VWの新サービスは、ウーバーと公共バスの中間に位置する。乗客は通勤路沿いで車を呼び、ほかの客を乗せたVWのバンが止まって拾ってくれるのだ。VWのワゴン車や似たような配車サービスの車両にひとたび安全に収まったら、乗客は法律を破ったり通行人をひいたりすることなく、メッセージをやりとりしたり電子メールを書いたりできる。これは自家輸送と公共交通のデジタルハイブリッドだ。人を乗せてヨハネスブルクやニューヨークといった街を巡回するミニバンの新たな生まれ変わりだ。
自動車メーカーは、自動運転車――前走する車との適切な車間距離を保つ機能といった運転支援技術を備えた車ではなく、高精細地図と数々のスキャナーによって導かれる本当に自律的な車――の未来を予見している。恐らくあと15年くらいは普及しないだろうが、この現象は到来する。特に都市部ではそうなる。
配車サービスと自律性を組み合わせたとき、興味深い結果が生じる。配車サービスやそのほかのオンデマンドのモビリティーが、以前より安く、はるかに便利になるのだ。そうなると、人がマイカーを持とうとする理由が分かりにくくなる。
なぜ我々が今、車を買うのか考えてみるといい。一つは、マイカーが非常に便利なことだ。自宅の外や近くにすぐに利用できる移動手段を持ち、好きなときに行きたい場所まで行くことができる。車はプライバシーと快適さも与えてくれる。公共交通機関の人混みと臭いから離れた、閉ざされた空間だ。