「患者さんの幸福度が、医療の進歩に比例して高まっていない」。がんのセカンド・オピニオン外来を主とする「東京オンコロジークリニック」代表の大場大氏(44)が説くのは、高度化したがん医療の選択に際しての心構えである。
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「◎◎クリニックに免疫療法について問い合わせたら、“いますぐ治療しないと大変なことになる。すぐに500万円を用意してください”と言われました。背に腹は代えられないけど、そんな額はすぐに用意できないし。信用してよいものなのでしょうか」
以前、患者さんの家族からこんな悲愴な相談を受けたことがあります。
そのうえ、このような話もありました。
「大腸がんが肝臓に転移してしまった。抗がん剤をどうしても受けたくないので、とあるクリニックでオプジーボと併用して活性化リンパ球療法、樹状細胞ワクチン療法を受けましたが全く効かなかった。次に粒子線を当てましたが再発してしまいました。1000万円近くかかったのですが、これからどうしたらよいでしょうか」
何かと話題の免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボは、特定の遺伝子変化をもつケース以外、通常の大腸がんには効果は期待できません。この患者さんは、最初から手術を受けていれば治癒が目指せていたにもかかわらず、根拠の乏しい治療を選び続けたことで、後戻りのきかない悲惨な状況になってしまいました。
専門的ながん診療のバックグラウンドのないクリニックでの免疫治療。あたかも魔法の杖のように吹聴される民間病院の粒子線治療。医療というよりはむしろビジネスと呼ぶべきものへの誘導にはくれぐれもご注意ください。
がん治療とはどこにあっても普遍的な意味をもたないといけません。本当に良い治療であれば世界中の同様な患者さんにも認知され、届けられるべきです。知人が紹介してくれる治療、インターネット広告で出会う治療は、「何かが変だ」と批判的にみるべきでしょう。ちなみに先に触れたクリニックは、有名出版社と手を組んで広告本を何冊も出版し、医業者相手にも患者紹介を募っています。なんと見返りとして20万円の報酬をちらつかせながら。
いくらインターネット社会が発達しているとは言っても、ことがんに関しては、自分にとって有益な情報は何かというところまで、検索エンジンは教えてくれません。
ウルフの愛称で親しまれた九重親方(第58代横綱・千代の富士)が、今年の7月に61歳の若さでお亡くなりになりました。原因は膵がんだということです。手術後に肝臓への転移が判明し、抗がん剤治療を奨められたようですが、次に訪ねたのがある放射線治療クリニックだと報道されています。そこでセカンド・オピニオンに従って、「四次元ピンポイント照射療法」なる独自の放射線治療を受けられたようです。
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