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[FT]トランプ政権の陣容は大いに疑問(社説)

2016/12/14 18:00
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 次期米国務長官に米石油メジャー最大手エクソンモービルのレックス・ティラーソン最高経営責任者(CEO)の起用が決まり、トランプ次期米政権の陣容がほぼ固まった。ドナルド・トランプという人物そのものを映し出す人選だ。確固たる意見を持つ面々がそろい、イデオロギーと現実主義が交錯し、ビジネス感覚が強い一方、愛国主義的でもある。顔ぶれに一貫性がなく、要するにひどく計り難いチームだ。

事業の署名式で写真に収まるティラーソンCEO(左)とロシアのプーチン大統領(2011年8月)=RIA Novosti・AP
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事業の署名式で写真に収まるティラーソンCEO(左)とロシアのプーチン大統領(2011年8月)=RIA Novosti・AP

 ティラーソン氏のロシアとのつながりが大きく取り沙汰されている。ロシアのハッカーが米大統領選に干渉したとする米中央情報局(CIA)の分析や、ロシアのプーチン大統領に対するトランプ氏の称賛、トランプ氏に連なる人々のロシアとのつながりを考えれば、懸念を呼ぶのはもっともだ。米上院で対ロシア強硬派の共和党議員がティラーソン氏の指名承認をこばむこともありうる。だが、ロシアと密接な関係を持たずに世界的な石油会社を経営するのは不可能だろう。エクソンの持ち株を手放す以上、ティラーソン氏は実際の働きぶりで判断されるべきだ。巨大組織を率いてきた同氏は非常に優秀で、中東で深い経験がある。他の一部の国務長官候補者とは違い、何かに狂信的でもないようだ。まず大きな試金石となるのは、緩和すべき根拠のない対ロシア制裁の扱いだろう。

 他の閣僚は3つの異質なグループに大別できる。まず、億万長者のグループで、共和党の伝統的な政策課題である減税と規制緩和を目指す実業家だ。財務長官、国家経済会議(NEC)委員長にそれぞれ指名されたスティーブン・ムニューチン氏、ゲーリー・コーン氏は、共に米金融大手ゴールドマン・サックスの出身者だ。商務長官となる著名投資家のウィルバー・ロス氏もこのグループに入る。

 次に、将官のグループだ。共に元海兵隊大将のジェームズ・マティス氏、ジョン・ケリー氏が、それぞれ国防長官、国土安全保障長官に指名された。

 3つ目は特定のイデオロギーを信奉するグループで、保守派の典型的な政策課題に関し、強い意見を持つ活動家たちだ。最も懸念を呼んでいるのが国家安全保障担当の大統領補佐官に指名された元陸軍中将で前国防情報局長のマイケル・フリン氏だ。短気な性格で知られ、イスラム過激派のテロを米国の安全保障に対する最大の脅威と見なしている。環境保護局(EPA)長官に選ばれたオクラホマ州司法長官のスコット・プルイット氏は地球温暖化に懐疑的で、EPAはあまりに権限が強すぎると考えている。労働長官となるファストフードチェーン経営者のアンドルー・パズダー氏は最低賃金の引き上げや労働規制に反対の立場だ。教育長官となる米国児童連盟委員長のベッツィ・デボス氏は、特に保護者や教師が公費で自主運営する「チャータースクール」の普及活動に取り組んできた。このグループが目指そうとしているものはわかるが、問題は実現できるかどうかだ。

■慣れるしかないトランプ流儀

 この人選がどのような結果をもたらすかは見通しにくい。上に立つのがトランプ氏であることを考えれば、なおさらだ。民間でのキャリアをもとに推測するしかない閣僚も多い。政府というものの動き方を知っている人たちは、不幸にして特定のイデオロギー信奉者が中心だ。典型例が元国連大使のジョン・ボルトン氏だ。ロシア、イラン、中国に対する強硬なタカ派で、ティラーソン氏を補佐する国務副長官への起用案が浮上している。この要職はボルトン氏にはふさわしくない。

 外交政策に関しては、孤立主義者、あるいはタカ派といえるトランプ氏を支えられる布陣だ。3人の元将官の存在は、トランプ氏が軍事問題について誰の助言を重んじることになるのかという疑問を抱かせる。最大の疑問はトランプ氏がどこまで自分で決めようとするか、そして緊張が生じた場合、閣僚の意見を重視するかどうかだ。

 温暖化対策、労働規制、法人税制についてははっきりしている。温暖化対策ではひどい結果になる公算が大きい。それ以外の大部分、特に外交・軍事政策は宙に浮いたままだ。これは大統領就任まで1カ月に迫った時点でのあるべき姿ではない。このままでは米国の同盟国を不安にさせ、敵を勢いづかせることにしかならない。だが、これがトランプ氏の流儀であり、我々は慣れるしかないのだ。

(2016年12月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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