この記事は,いらすとやさんのイラストを用いて鳥インフルエンザウイルスの増殖の仕組みについて,
かなり簡潔に書いたものです.これ以上は無理.
鳥インフルエンザウイルスとは?
近頃,またニュースでよく耳にするようになった「鳥インフルエンザウイルス」.
このエントリーを執筆時点で2016年高病原性鳥インフルエンザウイルスの確認が64件と,2010〜11年の62件を上回り過去最高に(野鳥の鳥インフル感染確認、過去最多 今期64件に:朝日新聞デジタル).
鳥インフルエンザはヒトにも感染するA型インフルエンザウイルスが鳥類に感染して起きる鳥類の感染症です(下線部は鳥インフルエンザ - Wikipediaよりそのまま引用).
鳥インフルエンザウイルスに感染した鳥が高率で死に至るものを高病原性鳥インフルエンザといい,その原因ウイルスを高病原性鳥インフルエンザウイルスといいます(鳥インフルエンザに関するQ&A|厚生労働省).
鳥インフルエンザウイルス(H5N1亜型)がヒトに感染して発症した事例は世界中で2003年11月以降856人,うち452人が死亡しています(鳥インフルエンザ(H5N1)について |厚生労働省).死亡者の症状は呼吸不全に陥るケースが多数ながら,多臓器不全や脳炎もみられています(http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/QA0612.pdf)・・・
ウイルスは細胞の中で増える
この項から,鳥インフルエンザウイルスの増え方の仕組みについて,フリー素材「いらすとや」のイラストを使って,ざっくり解説します.
ところで,ウイルスが増える場所はどこでしょう?これに答えられない女子大生が多数いました.
答は細胞.ウイルスは細胞の中で増えるのです.細胞はタンパク質を作る工房でもあります(巨大工場と言ったほうが適切ですが,イメージしやすくするため工房と表現しました.).
1.鳥インフルエンザの基本構造
鳥インフルエンザは直径80〜120nm(nm:ナノメートルは1メートルの10億分の1)の球形をしています.
これはMERSウイルスのイラスト.残念ながらインフルエンザウイルスのイラストはいらすとやさんにまだありませんので,これで代用します.
ウイルスの構造はとても単純です.基本的にタンパク質・遺伝物質・膜で出来ています.
2.タンパク質
上の図では,緑色のボールの周りに黄緑色の突起が描かれています.これは,ウイルスが細胞にくっつく(結合する)ためのタンパク質.「スパイク」と呼ばれています.
スパイクはタンパク質です.A型インフルエンザウイルスは二種類のスパイクを持っています.
1つはウイルスが細胞にくっつくとき(HA:ヘマグルチニン)に必要なもの,もう1つは細胞から離脱するときに必要なもの(NA:ノイラミニダーゼ)です.この点については後述します.他にも「反転コピーをとる」際に働くタンパク質(RNA依存性RNAポリメラーゼ)も持ってます.M1タンパク質,M2タンパク質などもありますが割愛.
3.遺伝物質
わたしたち人の持つ遺伝物質はDNAです.DNAは細胞の中心にある「核」とよばれるところに保管されています.いわば金庫ですね.
DNAは金庫に保管されるくらい重要なので,金庫の外に持ち出すことはありません.タンパク質等を作るときに必要な場合には必要箇所(遺伝子)の写しをとります.写しのことをmRNA(メッセンジャーRNA)といいます.
ウイルスの中には,遺伝情報としてDNAをもつタイプとRNAをもつタイプがあり,インフルエンザがもっている遺伝情報はRNAです.ただし,1本鎖ーRNA(いっぽんさマイナスRNA)とよばれるものです.1本鎖ーRNAを8分節持っています.
この中にフォルダが8個あるような感じでしょうか(ちょっと違うかも).
1本鎖ーRNAはそのままでは読み取られませんので,いったん反転コピーをとって1本鎖+RNA(1本鎖プラスRNA)に移し替える必要があります.転写およびキャップスナッチング機構については割愛.
こうなれば直接ポートに差し込んで使えるUSBメモリみたいなものになります.
3.膜
ウイルスは,私たちの細胞を包んでいる膜(細胞膜)を流用して自分の膜にしています.大きなシャボン玉の膜を使って小さなシャボン玉を作るイメージです.
この膜の中に,いわばUSBメモリであるRNA(1本鎖ーRNA)とタンパク質があり,膜の表面にもタンパク質(突起)がある,そんな風に思っていただければいいかな,と思います(ウイルスは,細胞に結合して吸着・侵入して膜を割るときに働くタンパク質もあらかじめ持っていますが割愛).
ウイルスはどうやって増えるの?
ウイルスは,ウイルス同士が集まっても増えることはありません.すでに述べたように,細胞の中に入り込まないと増殖できません.
ウイルスが増える手順はそんなに多くありません.大まかに6工程くらいです(とはいえ,それぞれの過程でそれぞれにタンパク質が働くことがありますが割愛).
1.細胞にくっつく
2.細胞の中に入り込む
3.中身をぶちまける
4.細胞の中のものを勝手に使って自分のパーツを作る
5.細胞膜を勝手に使って身に纏う
6.細胞の外に出て行く.
ここでは,4の「細胞の中のものを勝手に使って自分のパーツを作る」だけ説明します.
細胞の中には,タンパク質を作る大型工具のような細胞小器官があります.それは「リボソーム」です.リボソームは,mRNAの情報を読み取ってアミノ酸を順番通りにつないでタンパク質を作るという,とても重要な役割を担っています.
今風に言えば,3Dプリンタみたいなものです.
3Dプリンタを動かすためにはデータが必要ですよね?
ここまで読んで頂いた方はピンときたかもしれません.そうです.すでに登場したこのイラスト(反転コピー)がウイルスのタンパク質をつくるためのデータすなわちmRNAになります.
このUSBメモリ(mRNA)が3Dプリンタ(リボソーム)に読み取られ,細胞の持ち主(宿主)である鳥の意思とはなんら関係なく,ウイルスが必要とするタンパク質を作らされてしまいます.
同時に,このUSBメモリのデータをもとにして(鋳型)さらに反転コピー(転写)されてしまいます.こうして,もとのウイルス遺伝情報もたくさん作られてしまいます(複製).
つまり,ウイルスは,細胞という工房の中に勝手に入り込み,工房の中にある道具や材料を勝手に使って自分の部品をあれこれ作らせて,工房を覆ってる膜(細胞膜)をまとって工房の外に出て行くのです.
そして,元はと言えばたった1つのウイルスがくっつき,侵入しただけだったはずなのに,細胞の中でウイルスの部品をたくさん作り,ウイルスが増殖.増えたウイルスが他の細胞に侵入して再び増殖します.
たった1個のウイルスが細胞に侵入した結果,8時間後に100個,16時間後に1万個,24時間後には100万ものウイルスへと増殖すると言われています(http://www.hmedc.or.jp/guide/infection.php).
まとめ
①鳥インフルエンザウイスルは,侵入した鳥の細胞にくっつく.このとき働くタンパク質がヘマグルチニン(H1〜H16まで16種類)である.もう1つの働きは割愛.
②鳥インフルエンザウイルスの遺伝情報はそのまま読めるタイプ(そのままmRNAとして働き,リボソームで読み取られる1本鎖+RNA)ではなく,いったん反転コピー(転写)される.
③反転コピーされた鳥インフルエンザウイルスの遺伝情報は,細胞内の3Dプリンタ(リボソーム)で読みとられ,ウイルスのパーツ(タンパク質)が作られる.
④反転コピーをもとにして(鋳型にして)ウイルスの遺伝情報がいくつも作られる(複製).
⑤必要なパーツ(タンパク質)と遺伝情報(RNA)を組み上げたら工房の壁(細胞膜)を身に纏い,ウイルスは工房(細胞)の外に出て行く.このとき,工房の壁(細胞膜)にくっついている糖鎖を切断するタンパク質がノイラミニダーゼ(N1〜N9まで9種類)である.
⑥H5N1亜型とかH5N6亜型というのは,ヘマグルチニンとノイラミニダーゼのサブタイプの組み合わせによる.16×9=144亜型が確認されている.
以上です.おわかりいただけましたでしょうか?
なお,H5N1鳥インフルエンザのヘマグルチニンを構成するあるアミノ酸が変異するとヒトの細胞(の表面にある受容体)に結合しやすくなるとのことです(鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染に重要なアミノ酸変異を発見).鳥インフルエンザウイルスが容易にヒトへと感染するようになったら世界はどうなってしまうのでしょうか?
転写およびタンパク質合成過程である翻訳については拙エントリーに書きました.
覚えておきたいDNAからRNAへの転写の基礎の基礎【女子大生との会話より】
覚えておきたいtRNAと翻訳の基礎の基礎【女子大生との会話より】
ではまた!
<このエントリーに関連するお薦めの漫画と映画>
コミック4冊あります.良書.細かい描写が多くて老眼だと疲れますこれはKindleで買えば良かった.
今は亡き新宿のとある劇場で見ました.
アウトブレイクに登場するサルはアフリカミドリザルという設定ですが,演じているのは中南米に生息するオマキザルです.