エクソン・モービル(ティッカーシンボル:XOM)のレックス・ティラソンCEOが国務長官としてトランプ政権に入閣する予定です。

なお、この人事は上院の承認が必要です。

もし彼が国務長官になったら、エクソン・モービルにどのような影響が出るのでしょうか?

まず既に彼は来年の春にCEOを退任することが決まっていたので、エクソン・モービルの経営に対する影響はゼロだと思います。

つぎに彼が国務長官になることによって利益相反が生じるか? という問題ですが、これは避けられないと思います。なぜならエクソン・モービルは多国籍企業であり、世界の色んなところで商売しているからです。

マスコミはレックス・ティラソンのロシアとの関係を囃しているけれど、実はいちばん利益相反が生じるのはカナダです。

なぜならエクソン・モービルはカナダのアルバータ州に大きなオイルサンドのビジネスを展開しているからです。そのオイルサンド・ビジネスが飛躍するためには大口径のキーストンXLパイプライン(下図緑の線)の建設が必要になります。

Keystone-pipeline-route

(出典:ウィキペディア)

キーストンXLパイプラインの建設はオバマ大統領が拒否権を発動し、ストップしています。

トランプは「承認する」と公約しています。

エクソン・モービルはロシアカラ海で7億ドルを投じて海底油田開発を行っていました。しかしウクライナ紛争でEUならびに米国がロシアに経済制裁をすることを決めたので、このプロジェクトは半ばにして頓挫しています。

なおロシア政府は西側企業と「べったり」ではありません。資源を巡る交渉は、常にハードです。実際、過去にもBPが「ケツの毛までむしられた」経緯があります。

ロシアには資源がありアメリカには最新鋭の石油開発技術とノウハウがある……そういうお互いにとってのメリットがある上で、レックス・ティラソンがロシア政府とディールをまとめることが出来たわけで、それを単純に「プーチンとウマが合う」という風に考えない方が良いと思います。

なおトランプはレックス・ティラソンという人物を全く知りませんでした。

彼を推挙したのはロバート・ゲイツ元国防長官です。ゲイツ氏は現在、ライス・ハドリー・ゲイツLLCというコンサルティング会社のパートナーであり、この会社はコンドリーザ・ライス元国務長官、ステファン・ハドリー元国家安全保障補佐官などにより設立されたものです。

エクソン・モービルはライス・ハドリー・ゲイツLLCの顧客企業のひとつであり、そこでのコンサルティングを通じてロバート・ゲイツはレックス・ティラソンと懇意になったというわけです。

ところでトランプ政権の閣僚を見ていると、オールド・エコノミーの強さを改めて感じます。ゴールドマン・サックスからは3人が政権入りしていますし、商務長官のウィルバー・ロスは鉄鋼産業に明るいです。

ひるがえってシリコンバレーから誰が入閣しているかと見ると……ゼロです。

ちなみにビル・クリントンの政権は、シリコンバレーと「べったり」でした。