自民党が衆参ともに単独過半数を握った「1強体制」のもとで、国会は立法府としての機能を果たしているか。

 残念ながら、答えは「NO」と言わざるをえない。

 その象徴は、安倍首相の次の発言だ。「私が述べたことをまったくご理解いただいていないようであれば、こんな議論を何時間やっても同じですよ」

 年金改革法案をめぐる民進党議員の質問への答弁である。

 政府提出の法案に批判的にチェックを加えるのは野党の役割であり、野党もまた多くの有権者の声を背景にしている。

 その野党との議論を否定するかのような首相の発言だ。議会制民主主義への無理解に暗然とするが、今の国会はそれを跳ね返せないほどの危機にある。

 「強行採決するかどうかは議院運営委員長が決める」。環太平洋経済連携協定(TPP)承認案・関連法案をめぐる、山本有二農水相の発言もあった。

 審議入りから間もない時期に、行政府の担当閣僚が立法府の議運委員長に強行採決を求めるかのような物言いである。

 国家権力は立法、行政、司法の三権が分立し、相互抑制がはかられている。それなのに、今の国会は行政府の意向を追認するばかり。山本氏の発言はそんな現実をも表している。

 実際に安倍政権は今国会で、TPP、年金改革など国民の生活に深くかかわる政策を数の力で押し通していった。

 とりわけ最終盤に唐突に審議入りしたカジノ解禁法案は、ギャンブル依存症の増加への懸念などさまざまな問題が指摘されている。世論の反対は強く、野党だけでなく公明党など与党内からも慎重論が出ていた。

 にもかかわらず、国民に理解を広げる国会の努力は不十分だった。わずか約6時間だった衆院内閣委員会では、自民党の質問者が般若心経を唱え、持ち時間を費やした。これが「言論の府」の姿なのか。

 法案は参院で一部修正されたが、カジノの危険性は変わらない小幅な修正にとどまった。それで採決容認に転じた民進党の対応も、迷走ぶりを国民に見せつけた。

 多数の議席を背景に、一定の審議時間がたてば採決し、政府・与党案を可決する。機械的にこなすような審議を続けていては国会の責務は果たせない。

 選挙で得た数はあくまで基本だ。立法府の役割は議論を通してさらに幅広い合意を探り、多くの人が納得できる政策や法律を実現することだ。その最大の責任はむろん与党にある。