「貧乏人は麦を食え」…
「貧乏人は麦を食え」。66年前のきょう、池田勇人蔵相が国会で述べたというこの発言が批判を浴びた。米価引き上げを巡る答弁だが、実際にはそう言っていない
▼「所得に応じて、所得の少ない人は麦を多く食う、所得の多い人は米を食うというような、経済の原則に副(そ)ったほうへもっていきたい」。翌日の本紙記事の見出しは「金持は米 貧乏人は麦」。庶民感情を代弁して強調された見出しなどが、独り歩きして広まったのだろう
▼物議を醸す発言の多かった池田だが、首相となって「所得倍増計画」を打ち出し、経済を高度成長のレールに乗せた功績は評価されよう。日本は敗戦の焦土から世界有数の豊かな国に。ほとんどの国民は米を食べられるようになった
▼先月、おにぎりの早食い競争で、参加者がおにぎりを喉に詰まらせて亡くなった。気の毒な事故だが、主催したJAの意図を疑う。テレビでは相変わらず大食い、早食いの番組が
▼笑いのために食べ物を粗末に扱っているようで、目をそらしたくなる。飽食の一方で広がる格差。おなかいっぱい食べられない子どもが少なくない現状を思うにつけ
▼消費大国の生みの親ともいえる池田だが、ものを粗末にしない倹約家だったという。宴会で残った食べ物を集めて折り詰めにし、世帯持ちの若い記者に持ち帰らせるのが常だったそうだ。平成の世にあれば「ふざけるなら米を食うな」と叱ろうか。
=2016/12/07付 西日本新聞朝刊=