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[艦娘]になる、ということ

作者:ミナト
ある所で生まれた二次創作物です。
女帝の統治する大日本帝国での出来事であります。
照和とはその設定における年号です。
初めて書いたものなので見苦しい所もあるかもしれませんが、それでもよろしければどうぞご覧下さい。
感想があればお待ちしております。

照和十年○月●日、天気晴朗ナレドモ風強シ。

「陛下、本当によろしいのですか?」
「私が自分から言い出したことだ。今更やめるわけにもいかんだろう?」

陛下、と呼ばれる人間は20代半ばの女性。白い肌に烏の濡れ羽色と形容できるような、短くも美しい髪、そして深い黒の目。
大日本帝国第126代天皇、日継宮清音その人である。

何を言い出したのか、それは、艦娘としての適合検査、いわゆる『建造』の素体に自分がなる、ということであった。

適性が見つかったのは、高速戦艦金剛型4番艦霧島である。
元々の容姿もそこそこに結果と近い。ただある一箇所を除いてだが、まぁそれは気にするまい。気にしても始まらないのだから。

嘗て、ある鎮守府に、それはそれはロクでもない提督がいた、と聞く。
そしてそこにいた艦娘が反乱を起こして深海へと逃げたことも。
ある軍高官の息子だったと聞くが、この事件を受けて憲兵に洗わせたのだ。
結果は漆の黒も裸足で逃げ出すほどにどうしようもないクロ。
勿論、そいつは軍法会議にて責任を問うて懲戒、追放とした。文治を望む私のやりかたとはやや反することではあったが、仕様があるまい。

さて、話が逸れたな。元に戻そう。
私は今から適合検査を受ける。
成功すれば戦艦霧島となり、失敗すれば、良くて廃人、悪くて死と聞く。
まぁ、失敗したところで跡は断絶することもない。あいつ、髙仁だってしっかりしてきた。継がせても問題はなかろう。

ある筋から聞くところによると、適合検査とは、その内容は、その艦の魂とどれだけ真正面から向き合えるか、ということだと言う。
ただでさえその魂の、ことに一部の戦艦などの持つ凄惨な記憶に耐えきれず、早々に廃人となってしまう人間が多いと聞く。しかも特に私の場合、それを命じた者、時の陛下であり、私の祖父に当たるお方の直系だ。尚更検査時の負荷が大きいのではないかと技術部の事前分析で出ている。
艦によってはことに皇室への大きな怨念を持っている者もいるかもしれない、ということだそうだ。
幸い『霧島』の場合はそこまででもないらしい。しかし、あくまで予測であるからどこまで信頼が置けるかは未知数である────


────さて、時間のようだ。
怖くないと言えば嘘になるであろう。
誰だって死は怖いのだ。私とて例外ではない。
しかし自分で言ってはなんだが、私はこの国そのものを一身に背負う者。死ぬ覚悟などとっくの昔に出来ている。
皇位とは、それだけ重いのだ。


さあ、腹を括ろう。


工廠に一歩踏み入れれば、いわゆる機械油の臭いが鼻をつく。しつこい臭いだが、私はそこまで嫌いではない。
指定されたカプセルが見えてきた。
ここに入るには裸になる必要があるらしいが、しょうがない、検査のためだ。男性技術部員には一時退出してもらって、それから服を一切脱ぐ。
そしてカプセルへと入る。目の前にバイザーが降りてきた。どうやら装置の一部らしい。



「さて、朕に答えられることであれば、全て答えよう。霧島よ、朕は大日本帝国第126代天皇、日継宮清音である」

普段は『朕』なんて一人称は使わない。だが『天皇』そのものとして向かい合うには不可欠であろう。なれば使うまでである。

「・・・まさかここに来たのが天皇陛下その人とは驚きましたよ」

おや、思っていたものより随分と柔らかな口調ではないか。まさか遠慮なんてしてないだろうな?

「遠慮なぞいらぬ。貴様が思うことは全て朕にぶつけるがいい。遠慮されててはまるごと向かい合うこともできないからな」

途端、かかってくる雰囲気が固く、重くなる。そうだ、それでいい。全てぶつけろ。思いのたけも、怨みも、なにもかもだ。

「そう仰せになるなら遠慮はしません。後悔しても遅いですからね」
「なに、遠慮されたら逆にたまらん。来い、霧島。朕に全てぶつけろ。殺すつもりで構わん」

すると、堤が決壊したかのように、一気にその記憶が流れ込んでくる。

竣工、進水から、初陣、その他諸々を経て、第三次ソロモン海戦まで至る。
流石に重い、重すぎる。脳への負荷も当たり前だが、そこに付随して体へもやってくる。

気がつけば鼻血が出ていた。脳がパンク寸前まで行っているのだろう。
とはいえ、カプセルに入った時点で腕は固定されているのだ。手で拭うこともできない。
口まで垂れてきたら舐めるしかないな、これは。

そうしているうちに、記憶の奔流が弱まってくる。
これで終わりか?なんて一瞬思ってしまったが、短絡的な発想だった。
第二波が来た。記憶が生温く思えるくらいに重い、負の感情だ。
痛い、寒い、怖い、死にたくない。まずはここから来た。文字に興してしまえばテンプレのように感じてしまうものだが、ヒトの身で実際に耐えるとなるとなかなかキツいものである。
体の節々に痛みが走る。目だけ動かして見てみれば、どうやらあちこちの血管が切れて内出血を起こしてしまっているようだ。
感情、精神は体にまで影響を及ぼす。脳だけで処理しきれないもの、耐えられないものが体にまで出たらしい。
これはまだいい。だが問題は次だ。

第三波。いわゆる怨み節だ。
どうしてあんな無茶な命令を発したのか、助けてくれなかったのはなぜか。書き出せばキリがないであろう。
武勲艦であったとしてもこれなのだ。
これだけあるのだ。
耐えろ、耐えねばならぬ。でなければこの検査までこぎつけてくれた皆々様方へ顔向けもできない。

歯を食いしばる。気が付けば、鼻血、内出血に加えて吐血まで来ているらしい。
口内に熱いものがせり上がってきたかと思えば吐き出す。この繰り返しだ。
意識が薄くなってくる。血を吐きすぎたらしい。
だが構うものか。国を護る、人々の笑顔を守る。そのために私はここまで来たのだ。
よくよく考えてみれば、玲音だってこれだけの苦を耐えたんだ。姉の私がここでくたばるわけにもいくまい。


────貴様かてそうであろう?霧島よ。銃後の人々を護らんがためにあのような無謀な海戦にも挑んだのであろう?貴様の意志とは関係なかったとしても、それは軍艦の宿命なのだ。それは受け入れていたろうが。
朕かて護りたい人間なぞ、ごまんといる。
護れなければ後代の笑いものだ。死んでもそれだけは後免だね。

さぁ、今度こそ護る願いを果たす時だ。霧島、私に力を貸せ。思う存分その力、奮ってやろうぞ。


いつの間にやら、口の端を吊り上げて、笑みを浮かべていた。どうやら自然に笑っていたようだ。
命を賭けているってのに、気楽なものだ。いや、命を賭けているからこそなのかもしれない。
自負がそうさせたのだろう。己が国、国民を背負っているという、その自負が。
全てがこの肩にかかっている。艦の魂が持つ怨みなど、その前ではさしたるものではない、と我が魂は言いたいのかもしれないな。


その瞬間、一切の奔流が収まった。
同時に、狭いカプセル内で膝から崩れてしまう。
腕は固定されているから、固定具に吊り下げられたような形になるだろう。

朦朧とした目で視線を膝へ落としてみれば、その先には黒の短いスカートに、白い上衣の裾。

ああ、成功したか。

そのことに安心して緊張の糸が解けた途端、ふっと意識が途切れる。
技術部員達が駆けてくる足音を聞きながら、気を失ったのだ。





────戦艦霧島、この世に艦娘として再び顕現す。
この若き天皇[スメラミコト]の身を依代として。

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