がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点
コラム
標準治療って何? ~標準治療はどうやって決まるのか?標準治療の誤解~(下)
「標準治療を受けるのはイヤです。最先端の治療はないんでしょうか? お金はいくらかかってもいいんです。インターネットに出ていた、最先端の免疫療法は自費診療らしいのですが、効果があるように書いてありました。早期にやったほうがよいとも書いてありました。この最先端の免疫療法をやってみたいのですが、いかがでしょうか?」
このような質問をほぼ毎日のように患者さんからお受けします。
実際に、自費診療の治療を多数の患者さんが受けている現状にあると思います。
我が国では、標準治療というものがかなり誤解を受けており、また、最先端の治療というものも一般の皆さんには誤解があるように思います。
インターネット上のがん情報の真偽は?
インターネットがスマートフォンで簡単にアクセスでき、情報を簡単に手に入れることができる時代になりました。
一部上場企業の「DeNA」が運営する情報サイト・WELQ(ウェルク)が根拠のない医療情報サイトを提供し、サイトが閉鎖されるという事態になりましたが、これは何もウェルクだけのことではありません。
がん情報には、特に怪しい情報が多いのが現状です。私たちは、今年の癌治療学会で、がん治療のネット情報の信頼性について調査した結果を発表しました(1)。
情報の信頼度を、ABCの3段階に分け、「レベルA」をガイドラインに基づいた信頼できるサイト、「レベルC」を危険・有害なサイト、「レベルB」は、「レベルA」「レベルC」に該当しないもの、としました。
結果は、247のがん情報サイトを検索、評価したところ、レベルCの、患者さんにとって有害と考えられるサイトが39%あり、信頼できるサイトより多かった(レベルAは10%)、というものでした。
この評価は、あらかじめ講義を受けた医学生にやってもらいましたが、専門家による評価と高率に一致しました。
一般人にも同じように評価ができるかどうか、研究を拡大したいと思っていますが、
やはり驚くべきことは、患者さんを惑わす有害なサイトが39%もあったということです。
いかに正しい情報を手に入れるかが難しい時代になったということだと思います。
標準治療とは何でしょうか?
日本語で、標準治療と言いますと、“並の治療”“平均的な治療”のように聞こえてしまうかもしれません。
標準治療とは、英語の“Standard therapy”を日本語訳したものですが、わかりやすく言うと、“最善・最良の治療”のことです。
最善・最良の治療は、どうやって決められるのか?
と言いますと、基礎研究、臨床研究の結果、決定されます。
具体的に言うと、前回、「 標準治療って何? ~標準治療はどうやって決まるのか?標準治療の誤解~(上) 」で示したように、基礎研究の後、3段階からなる臨床試験を経て、標準治療となります。
3段階の臨床試験は、毒性を評価する第1相試験、短期的な治療効果を評価する第2相試験、そして、長期的な治療効果を評価する第3相試験からなります。
第3相試験が最終段階の臨床試験ということになりますが、第3相試験まで行われてこそ、真の有効性がわかるということです。
第3相試験とは、患者さんを、これまでの標準治療とランダム(無作為)に振り分け、長期的な治療効果を比較するもので、ランダム化比較試験とも呼ばれます。
抗がん剤の臨床試験が一般薬の臨床試験と異なっている点は、抗がん剤以外の一般薬では、第1相試験は健常者を対象とするのに対して、抗がん剤は患者さんが対象となるところです。
抗がん剤は、一般薬よりも副作用が強く出るため、患者さんを対象とすることが多いのです。
この研究手法は、薬剤の評価のみではありません。がん検診や外科的治療の有効性を証明するためにも、臨床試験の結果をもってして、医療の有用性が評価されるのです。
治療の効果を科学的に証明するためには、治療を行った患者さんの結果だけを見ても、その治療法に本当に効果があったのかはわかりません。
つまり、その治療をやらなかった患者さんのデータとの比較が必要となります。
その場合、治療以外の背景のデータをそろえる必要があります。
条件の良い患者さんばかりを選ぶと、治療効果はいくらでも良い結果になるからです。
がん治療の場合は、全身状態の良い患者さん、転移の少ない患者さん、再発までの期間が短い患者さん、心臓疾患や肝臓疾患など合併症のない患者さん、これらの患者さんでは、治療効果は非常に良く見えるのです。
すなわち、このような全身状態が良好な患者さんは、全身状態が悪い患者さんに比べて、生存期間が長く、がんが悪化するまでの期間が長くなります。
このような場合、治療効果と言っても、単に、予後(その後の治療経過)が良い患者さんを集めただけのデータである可能性もあるということです。
これを“選択バイアス(偏り)”と言います。
比較のないデータ、臨床試験では第2相試験と呼びますが、単一の治療法の効果だけを評価したデータは、どうしてもこの“選択バイアス”を避けられません。
例えば、○○治療を行った数百例、数千例のデータがあったとしても、本当に良い治療効果を示しているのかわからないと言えます。
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