RAスタッフが今年のベストアルバムをピックアップ。
- 20.
"Serial Data Transmission"
Gesloten Cirkelの『Submit X』をシャウトと例えると、VC-118Aの『Shift Register』はエコーだと言えよう。2016年はダンスミュージックにおいてエレクトロが急成長した1年となり、その波は他ジャンルのアーティストに影響を与え、ファンを煽り、ニューカマーたちに刺激を与えた。そうした再興の最中、オランダのベテランプロデューサーSamuel Van Dijkは、自身のすべきことを続け、VC-118A名義ではセカンドアルバムとなる今作をリリースした。多くのアーティストがエレクトロの力強さに取りつかれる一方、Van Dijkはその輪郭に磨きをかけたのだ。遠慮がちに感じられるその音は、すぐに静なる威厳だと気づかされる。『Shift Register』は、時間をかけてじっくりと聴く事によって、本来の魅力がわかるのだ。
- 20.
- 19.
"XL"
Funkineven名義でよく知られるロンドン拠点のプロデューサーSteven Julienは、『Falle』で一か八かの行動に出た。彼は、自身がこれまでファンを獲得してきたスパイキーなドラムトラックとエディット風ハウスのアルバムを容易に作る事ができたはずだったが、同作ではブロークンビート、ジャズファンク、そして不穏なサウンドトラック・スタイルのアンビエンスを追求し、長い1日が夜になっていく様子を表現した。天使の堕落を描いたこのコンセプトアルバムには、2つの重要なバンガーが収録されている。今年のベスト・ビートダウン・トラック”XL”、そして、アトモスフェリックで機能的な傑作"Jedi”だ。相変わらず、Julienの音楽にはロンドン独特のセンスに満ち溢れている。
- 19.
- 18.
"The Feeling When You Walk Away"
Unsound 2016で披露したカオティックなセットの中で、Yves Tumorはステージ上で歌っているのと同じぐらいの長い時間、フロアでのたうち回っていた。また、今年の初め、彼はBekelé Berhanu名義でアンタイトル作品を発表。風洞の中でノイズバンドが演奏しているかのように聴こえるその作品について彼は、Throbbing Gristleに影響を受けた、とDazedのインタビューで説明していた。こうした話を踏まえると、彼が2016年で最も繊細かつ、ただただ美しいソウルの傑作『Serpent Music』を作った人物であるということに驚かされるだろう。ダークな一面も持つ同作は、Yves Tumorを、今年最も複雑で興味深い新鋭アーティストのひとりに位置づけた。
- 18.
- 16.
"Man"
Skeptaが最近行った、UKを象徴するコンサートスペースのひとつAlexandra Palaceでのソールドアウト・ギグは、彼の長年のキャリアの集大成となった。それは『Konnichiwa』に対するハイプと期待の大きさを物語っていた。Skeptaは”That's Not Me"そして"Shutdown"というシングルでカムバックを果たし、大きな勢いに乗った一方で、彼を取り巻くグライムシーンはオーバードライブ状態となった。だが、端的に言うと彼はやってくれた。同作は、グライム信者や新たなUSのファン、更にはマーキュリー賞の審査員を納得させ、彼自身そして世界的なグライムのパワー、その両方のポテンシャルを引き出した。
- 16.
- 15.
"BZ Reaction"
多くのモダン・エレクトロニック・プロデューサー同様、Peder Mannerfeltは自身のパワフルなサウンドデザインを思うがままに支配する。しかし、この世の終わりのようなダークなサウンドを追求する同朋たちとは違い、彼はそのパワーをプラスの方向に使っており、異なったテンポやユーモアを作品に加えることにより、『Controlling Body』を、オーディオの素晴らしさを発揮する以上の意味を持つ作品へと昇華させた。 Glasserによる穏やかで呪文的なヴォーカル、レイヴの要素、モジュラーサウンド、ミニマリズムを融合させ、聞きやすくも、しかし毅然としたLPを完成させた。そのバランスをうまく両立させるのはなかなか難しく、同作には実験エレクトロニクスに不足しがちな分かりやすさに根ざした、Mannerfeltの妙技が現れている。
- 15.
- 14.
"Arthropoda"
混乱にまみれたこの1年の中で、『EARS』は必要とされた作品だった。作曲家であり、Suzanne Cianiの弟子であるKaitlyn Aurelia Smithが発表したサードアルバムは、驚嘆と逃避に満ちた、どっぷりと夢中になれる場所だ。Buchlaのシンセサイザー(彼女の代名詞でもある楽器だ)、処理されたチャント、軽快なオーケストレーション、ザラついたサウンドデザインによって構成された音楽は、また訪れたくなるような、幻想的で漂うような旅へと聞く者を誘う。『EARS』は、この真価を認めれたアーティストの代表となる作品だ。
- 14.
- 13.
"Anywhere"
Motion Graphicsのデビューアルバムは、テクニカルな妙技と、明るくオリジナルなソングライティングの上に構成された、高精細なシンセポップのレコードだ。懐かしくもあり、非常に異質にも聴こえる楽器を用いた彼のサウンドデザインの深さは、それだけでも特筆すべきものだ。しかし、その輝くテクスチャー以上に、同作にはPhilip Glass、Yellow Magic Orchestra、そしてDJ Nateのようなシカゴ・フットワークのプロデューサーたちから影響を受けた、深い音楽性がある。一言にまとめると、物語を話すような効果を持つ同作は、リスナーを夢のような明日の世界へと誘う。
- 13.
- 12.
"Sourcer"
ジャングル、ダブ、テクノ、そしてアンビエントに、オカルトのひと捻り ー Miles WhittakerとSean Cantyはこのサウンドを2009年に確立したが、最新LPではそれを完ぺきに近いところまで到達させた。『Tryptych』が持つ心をかき乱すような雰囲気と、『Testpressing』シリーズのクラブ・ミューテーションを合わせ持った『Wonderland』は、ファンキーで、歪んでいて、音質的にリッチ、そして紛れもなくDemdike Stareだ。
- 12.
- 10.
"Water Diviner"
『House Of Dad』のカバーには、木製の便座が静物画のモデルのように置かれた写真が使われている。メルボルン郊外に住む配管工の父親へのオマージュとしてAndy Wilsonが制作したこのアルバムは、陽気であり、ふざけてすらいる ー ”Entrance To The Garage”はシンフォニックなマウス・トランペットで終わり、"Stereo Dunnies”はトイレの排水音で始まるのだ。しかし『House Of Dad』の中核にあるものは、誠実で、感動的で、そして音楽的に豊かな、息子から父親への贈り物なのだ。
- 10.
- 9.
"c16 deep tread"
現在のところ、Sean BoothとRob Brownは自身達のやりたいことを何でも実現している。キャリア約30年に及ぶこのデュオは、あらゆる限界と期待を取り払った。この4時間に及ぶデジタル・コレクションを聴き通した人は、最近の記憶の中でも最高のAutechreの音楽に報われたはずだ。もちろん聴き終えるのは大変だったが、そこには光るメロディーの稲妻と、BoothとBrownによる典型的なビートのポケットによって裏切られた、Max/MSPの中核にある寛大さが存在していた。『elseq 1-5』は、定義できず、カオスにまみれ、非人間性で固められた、そんなAutechreを象徴する作品だ。
- 9.
- 8.
"Saline Moon"
Gerard HansonはConvextionwent名義のレコードを10年近く発表していなかったが、今年に入ってから3枚の新作をリリースした。発売の前日に突如Discogsに掲載された『2845』は(彼らしい控えめな行動だ)、この僅かなディスコグラフィを持つテキサス拠点のプロデューサーが、何故これほどまでに尊敬を集めているのかを我々に思い出させる作品となった。ディープで、デトロイトに影響を受けた、穏やかなメロディーと完ぺきなドラムプログラミングからなる同作は、最初から最後まで何度も繰り返し聴くことのできる、貴重なテクノアルバムだ。
- 8.
- 7.
"No"
Nicolas Jaarのセカンドアルバムには、"No"という、彼の母国チリの冷酷な独裁政権を引きずりおろした国民投票にインスパイアされたトラックが収録されている。"No" — それは『Sirens』を満たす、シンプルでありながらも断固としたメッセージだ。Jaarは複雑な政治情勢、過去と現在を取り上げ、自分の経歴や立場を、時に残酷な言語で調和させる。そうした個人的かつ力強いリリックを、彼の最近の作品に見られるプロダクション・マジックとミックスすることにより、Jaarは自身のキャリアの中で最も強力なレコードを完成させた。
- 7.
- 6.
"Burn The Witch"
Radioheadは、我々の多くが物心がついた頃から活動しているが、彼らのサウンドは時間と共に、より記憶に残る、豊かなものになっていき、リリックは個人的/政治的な数えきれない出来事を遠回しに反映している。『A Moon Shaped Pool』は、少し作風の違った『The King Of Limbs』を経ての、そうしたサウンドへの回帰作となった。いつものようにポエティックでシネマティック、そして音響的にリッチな同作は、この唯一無二のバンドが過去25年間において如何に重要な存在であったかを思い起こさせてくれた。
- 6.
- 5.
長い間、フォード・モーターでの部品承認の職を離れないでいたOmar-Sだが、彼は世に送り出す全てのトラックに対しても同様の品質管理を適用している。最新アルバム『The Best』でAlex O. Smithは、彼がハウスミュージックにおいて、現在最も一貫したプロデューサーであるということを提示した。 今作で彼は、ダブテクノから("Time Mo 1 (Norm Talley Mix)")、デトロイトへのシャウトアウト("Seen Was Set (Norm Talley Mix - Big Strick Vocal)")、そしてAmp Fiddler("Ah'Revolution")やJohn FM("Heard'Chew Single")の才能を生かした非凡なヴォーカルトラックまでと、実に多様な作品に仕上げた。当然の事ながら、この中に弱めのトラックはひとつも収録されていないが、それは言わなくてもお分かりだろう。
- 5.
- 4.
"Promises Of Fertility"
「心地よさに包まれる」、これはDJ Pythonが執筆したHuerco S.のデビュー・フルレングスのライナーノーツにあった一文だ。このカンザス出身のプロデューサーは、自身がツアー中に神経を落ち着かせる為に聴くビートレスでルーピーなレコードからインスピレーションを得たようだ。そういうわけか、『For Those Of You Who Have Never (And Also For Those Who Have)』にもそれと似たような効果があり、リスナーを静かな感情の波で包み込む。クロージングトラックの"The Sacred Dance"は、孤独な窓から雪とクリスマスのライトを見ているような気分にさせられる。子守唄のような同作は、悲しく、美しく、そして中毒性がある。
- 4.
- 3.
"Everest"
Ilian Tapeは、アルバムというフォーマットに適したサウンドをプッシュする数少ないテクノレーベルのうちのひとつだ。今年我々は、Skee Maskの『Shred』に、その最たる例を見た。濃密で、美しく刺激的なこのフルレングスには、このミュンヘンのトップ・テクノレーベルの人気の理由、全てが要約されている。ピンと張り詰めた空気感、ストリップダウンされたサウンド、リズミカルなダイナミクス。そんな『Shred』は、Skee Maskの過去の12インチ作品に見られるムーディーな雰囲気を更に推し進めており、ジャングルの要素を取り入れたテクノビートと薄暗いシンセの融合は、一度にとても多くの事を言い表しているようにも思える。
- 3.
- 2.
"Timebird"
Demdike Stareのレーベルからリリースされるダンスホールのアルバムが、つまらないわけがない。だが、正確に言うとダンスホールになるわけもなかった。"A Rabbit Spoke To Me When I Woke Up”というタイトルからも察しがつく通り、『Bird Sound Power』は、ありきたりとはほど遠い作品だ。ダンスホールのリズムは現代的で重みのないアレンジがなされ、トロピカルな雰囲気は耳障りなコードと発狂したようなサウンドでぼかされている。ファンキーかつシュールな『Bird Sound Power』は、数十年前に生まれたクラブサウンドのクリエイティブの可能性を、新しいオーディエンスに提示した。
- 2.
- 1.
"N.A.Z."
『BBF Hosted By DJ Escrow』は2016年そのものだ。
歪んだ愛国心。移民のアイデンティティ。繰り返すことに対する痺れ。ミーム。不確実性。約束と離脱の間の意思決定。騒々しく、混乱し、複雑。Dean Blunt、DJ Escrow、そしてGassman DによるBabyfather名義のデビューアルバムは、2016年の世界に関する直接的な解説というわけではないが、その投影のようにも感じられる。
そして、とんでもなくヤバいヒップホップとデジタルダブのレコードでもある。Bluntは過去の2枚のソロレコード『The Redeemer』と 『Black Metal』で見られるインディー路線を離れ、サウンドシステムの音圧と大麻溢れるバーを求めたのだ。このアルバムは、甲高い声のDJ Escrowがホストを務める、海賊ラジオのような体裁になっている。彼は我々を、ポストTimbaland的なチューン(”Meditation”)、King Tubby風のトラック ("Shook") 、そしてエモーショナルなバンガー(”Deep”)へと案内する。また、同作にはArca、Micachuという、ロンドン拠点の先進的なアーティスト2人がゲストとして参加しており、それらコラボレーショントラックや、その他の多くのトラックは、Bluntが彼のキャリア至上、最高の状態にいることを表している。同作の中核にあるEscrowの不敵な存在感、いくつかのピュアなノイズトラック、そして「This makes me proud to be British(イギリス人であることを誇りに思う)」という印象的なリフは、『BBF』を2016年で最も挑戦的かつ、話題の作品の1つとして決定付けた。もちろん、リスナーはプレイリストの中でこれらのトラックを編集できるが、そのような行為は同作の豊かなアイデンティティを押しつぶし、以下を欠く事を意味する :
「俺たちは皆分け隔てられている、結束なんてものはない… もし俺たちが皆繋がっていたら、デカいことができたはずだろ… 人間は物事を結びつけ、ちょっとしたいいリズムで遊ぼうとする… そしてただ、そういう姿勢やヴァイブを、人間の政治や経済に持ち込もうとするんだ」
This poll is decided by the votes of RA staff members and current contributors.
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RA Poll
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RA Poll: Top 40 live acts of 2016
2016年、最も多くの心を掴んだライブアクトたち。
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RA Poll: Top DJs of 2016
2016年度のPollシーズンがスタート。まずは読者投票によるトップDJを紹介する。
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RA Poll: Top 50 tracks of 2015
2015年のPollラストは、RAスタッフが選ぶ今年のベスト・トラック
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RA Poll: Top mixes / compilations of 2015
RAスタッフが厳選する、今年のベスト・ミックスとコンピレーション
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Other Features
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Label of the month: Trip
Nina Kravizによる個性派レーベルтрипの奇抜な世界をAngus Finlaysonが紐解く。
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11月のベスト・ミュージック
この1ヶ月間のリリースからRAスタッフがお気に入りを紹介。
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The art of DJing: Patrick Russell
デトロイト・レイヴの黎明期から信念を曲げずに20年活動してきたPatrick Russellは、これまで国際的にほぼ無名であったが、それは最近変わりつつある。Will Lynchがこの脚光を浴びているDJに迫る。
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RA In Residence: Mystik
11月のRA In Residenceは急成長を遂げるソウルのクラブシーンの中枢を訪ねる。
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Label of the month: Vlek
自国の才能にフォーカスして独自で特異な個性を生み出すVlek。ベルギー発の同レーベルの設立者たちに会うため、Augun FinlaysonがDour Festivalへ向かった。
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