戦闘発生時の「日報」廃棄 陸自3カ月足らずで 南スーダンPKO
- 神奈川新聞|
- 公開:2016/12/14 05:59 更新:2016/12/14 07:00
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情報公開は9月30日付で請求。日報が作成された翌日から起算したとしても3カ月もたたず廃棄していることになる。
陸自の内部資料によると、派遣部隊の「日報」は後の訓練のための基礎資料として活用される「主要教訓資料源」とされ、特にPKO派遣などでは錬成訓練のシナリオや、現地での教訓を後に反映させるために使われる重要な資料とされる。
陸上自衛隊文書管理規則では、PKO業務に関する文書の保存期間基準を「3年」と規定している。一方、備考欄に「随時発生し、短期に目的を終えるもの及び1年以上の保存を要しないものの保存期間は、1年未満とすることができる」と例外を記載している。廃棄の根拠について統合幕僚監部報道官室は神奈川新聞社の取材に「すぐには分からない。調査している」と回答した。
布施さんは、この例外規定に当たると判断し廃棄したと推測するが、「『短期に目的を終えるもの』とは到底考えられない。恣意(しい)的に判断したとすれば、その妥当性が問題になる」と指摘する。
南スーダンでは政府軍と反政府勢力による武力衝突が相次ぎ、7月8~11日にはジュバで大規模な戦闘が発生、270人以上が死亡した。非政府組織(NGO)の女性職員がレイプされたり、施設内の備品が略奪されたりしている。
揺らぐ文民統制
派遣正当性 検証に影響も南スーダンへ派遣されている自衛隊が作成した「日報」がわずか3カ月足らずで廃棄されていたことにジャーナリストの布施祐仁さん(39)は危機感を募らせる。「国民や国会議員が1次資料で検証できない。つまり自衛隊の運用で最も重要なシビリアンコントロール(文民統制)が利かないということ。それは民主主義の危機を意味する」
「日報」に着目したのは、次の派遣の際に行われる訓練や基本教育の基礎資料として使われていることが分かったからだった。南スーダンで起きた7月の大規模戦闘の状況について日報に記載されているはずで「非常に中身のある文書なのではないか」と見込んだが、回答は予想外の「廃棄」だった。
これまでも自衛隊に関連する資料を情報公開請求してきた布施さんは「黒塗りならまだ分かるが、3カ月足らずで『廃棄』というのは見たことがない。違和感があるし、ふに落ちない」と不信感を強める。
日報の意義について「自衛隊の派遣継続や新たな武器使用任務の付与の可否を判断する上で、7月の大規模戦闘で自衛隊がどういう状況に置かれ、どう判断し、どう行動したかはとても重要な1次資料だったはず」と指摘。今後の有事の際、派遣継続などの判断の正当性を検証する上でも欠かせないはずだった。
稲田朋美防衛相は11月22日の参院外交防衛委員会で、7月の大規模な戦闘に関して「南スーダン情勢については可能な限り国民の皆さんに説明する」と答弁。こうした閣僚発言からも、日報の廃棄は問題点が多い。
仮に日報で停戦合意が破綻している状況が報告されていたり、反政府勢力が「紛争当事者」として支配地域を有していると判断されていれば、国連平和維持活動(PKO)派遣の基本方針である「PKO参加5原則」に反する。つまり派遣は憲法9条に違反し、違憲ということにもなる。
布施さんは「南スーダンは既に、政府軍と反政府勢力の対立、あるいはヌエル族とディンカ族の部族対立という単純な構図ではなく、もっと複雑化してしまっている。戦闘地域も当初の北東部から全土へと拡大している。政府は『武力紛争』を『衝突』と置き換え、反政府勢力の『支配地域』を『活動が活発な地域』と言葉だけ置き換えている」とし、政府が意図的に情勢判断をゆがめていると見る。「自衛隊を派遣するために事実をねじ曲げ、つじつまを合わせようとしているとしたら、問題は極めて大きい」と話している。
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