自衛隊の新しい任務について、政府に改めて慎重な運用を求める。
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)で、離れた場所にいる国連職員らを助ける「駆け付け警護」などの新任務を付与された陸上自衛隊の部隊が、活動を始めた。
南スーダンの治安は、深刻で流動的だ。7月に政府軍と反政府勢力の戦闘が再燃して約300人が死亡して以降、和平合意は破綻し、各地で武力衝突が起きている。市民への殺傷行為が発生し、人道危機が叫ばれている。事実上の内戦状態だ。
「破綻国家」とまで言われるこの国を立て直すのに、国際社会の支援は不可欠であり、日本もその一翼を担うことには意義がある。
日本政府は、南スーダンの国全体としての治安悪化は認めている。そのうえで、自衛隊が活動する首都ジュバについては、反政府勢力の部隊が市外に退避したことから「比較的落ち着いている」と説明している。
けれども最近の問題は、政府軍と反政府勢力の戦闘にとどまらない。政府軍の統制から外れた一部の兵士らが、国連職員や非政府組織(NGO)職員らを攻撃し、事態をより複雑にしている。
駆け付け警護に赴いた自衛隊が、そういう政府軍の一部に対して武器を使用する事態になった場合、憲法が禁止する武力行使にあたるのではないかとの指摘が、野党などからは出ている。先日の党首討論でも共産党の志位和夫委員長が追及した。
安倍晋三首相は「大統領も副大統領も自衛隊を歓迎している。政府を代表する大統領と副大統領が受け入れるということは、政府軍と自衛隊が干戈(かんか)を交える(戦う)ことにはならない」と述べた。
大統領が受け入れると言っている以上、自衛隊が政府軍と戦うことにはならないという首相の説明は、形式的には妥当に見える。だが、混乱する現場では、判断に迷うことがあるかもしれない。
改めて確認しておきたいのは、駆け付け警護の任務付与は、必ず実施するというものではなく、実施が可能になっただけということだ。自衛隊の能力を超えるような場合には、要請があってもすべきではない。
政府は、新任務付与の閣議決定の時にまとめた文書で、駆け付け警護は「応急的・一時的な措置として、能力の範囲内で行う」との考え方を示した。PKO参加5原則を満たしていても「安全を確保しつつ有意義な活動」を行うことが困難な場合は、「自衛隊の部隊を撤収する」と明記し、実施計画にも盛り込んだ。
自衛隊はこの考え方に沿って、油断なく任務を遂行し、南スーダンの安定に貢献してほしい。