【モスクワ=田中孝幸】ロシアのプーチン大統領は15日からの来日を前に、モスクワのクレムリン(大統領府)で読売新聞、日本テレビと会見した。日本との最大の懸案である北方領土問題について、経済関係の発展を先行させて解決の環境を整えるべきだとの考えを強調した。日本が求める四島返還への反対の立場も重ねて表明。ウクライナ問題を巡って日本が欧米と共に続けている対ロ制裁への不快感もあらわにした。
ロシア大統領府が13日、会見録を公表した。15~16日の安倍晋三首相との首脳会談を控え、日本側を強くけん制する狙いがあるとみられる。安倍政権が最重視する領土問題の早期進展はさらに困難な見通しになった。
プーチン氏は日ロ関係について「双方の希望に沿った関係を築く基礎は得られていない」と述べ、平和条約締結を目指す考えを表明。両国の信頼醸成に向けて「第一に貿易・経済関係を改善する必要がある」と指摘し、ロシア極東地域の開発への日本の協力に期待感を表明した。
領土問題では平和条約締結後の歯舞群島、色丹島の引き渡しを定めた1956年の日ソ共同宣言に言及。四島の返還を求める日本の立場には「共同宣言の枠を超えている。全く別の話で、別の問題提起だ」と述べ、国後、択捉2島は将来的にも返還対象とはなっていないと強調した。
今回の首脳会談での領土問題の協議については「どう問題を解決するか明確な理解に達することを望む」と述べる一方、大きな進展がないとの見通しを示唆。「(進展は)我々のパートナーの柔軟性にかかっている」と語った。
北方領土での日ロの共同経済活動については「様々な選択肢があり、我々は検討する用意がある」と明言。四島の共同開発を含めた大規模な経済協力が領土問題の解決に必要な信頼醸成に資すると語り、実現に期待感を表明した。
実施のための法的枠組みを巡っては、日本が自国の主権下で実施すると主張した場合「次のステップが必要なくなり、この話は終わりになる」と強調。日本側に歩み寄りを促した。
一連の発言には、領土交渉に応じる姿勢を見せる一方で、具体的な中身を巡る協議はできるだけ引き延ばし、経済、外交面で日本から最大限の協力を引き出す狙いが透ける。平和条約締結交渉の期限の設定にも反対する考えを重ねて表明した。
日本が主要7カ国(G7)の一員として発動した対ロ制裁に関しては「制裁下でどうやって経済関係を新たなレベルに進めることができるのか」などと不満を繰り返し表明した。対ロ制裁の実施に反対した石油大手エクソンモービルの会長兼最高経営責任者のレックス・ティラーソン氏がトランプ次期米政権の国務長官に指名されたこともあり、プーチン氏は領土問題をテコにG7制裁網を突き崩す戦略を描いている。