映画のVFX制作で使用するDPX画像ファイルは何が優れているのか?
- 2015/02/11
DPXという言葉を聞いたことがあるでしょうか?そのまま「ディーピーエックス」と読むのですが、映画のVFX制作でよく使用されるファイルです。これは画像ファイル形式で、拡張子は.dpxです。JPEGやPNGやTIFFのような、静止画を格納する画像ファイルです。しかし、なぜこのファイル形式を使うのでしょうか?

VFX制作でDPXが使用されると言っても、3DCGのレンダリング画像を保存するわけではありません。DPXは、主にカメラで撮影された実写映像を保存するために使われます。そしてVFX(CG合成)やDI(デジタル・インターミディエイト)、グレーディングと言った映画の仕上げ作業に利用されています。今回は、そんなDPXの優れている点を簡単に紹介してみたいと思います。
DPXは、最近では(お馴染みのビデオスペースを始め)さまざまなカラースペースで保存されることも増えています。しかし、もともとは"Cineon 10bit Log"(シネオン テンビット ログ)という特殊なカラースペースで保存されることで有名です。そこで、この記事ではCineon 10bit Logスペースについて解説したいと思います。
まずは"10bit"の部分から説明しましょう。10bitというのは色深度(ビット深度)のことで、その画像がどれだけ豊かな階調を表現できるかを意味しています。たとえば一般的なJPEGは8bitの画像で、RGBの各チャンネルに256階調があります。bit(ビット)はコンピューターの計算単位で、1bitでは0か1か(白か黒か)しか表現できません。2bit, 3bitと増えていくほど2をべき乗(るい乗)していくので、階調はどんどん増えていきます。8bitは2の8乗で256階調。10bitは2の10乗で、1024階調あります。
色深度について初めて知った方は、「色鉛筆のセット」を想像すると分かりやすいでしょう。12色の色鉛筆のセットより、36色のセットの方が、微妙な色の違いまで描き分けることができます。それと同じで、bit数が増えるほど色数が増えます。ただしデータサイズは大きくなり、処理は重くなります。

10bitは8bitの4倍の階調があり、より多くの色を表現できます。しかし10bitは本当に色数が多いと言えるのでしょうか?というのは、現在では16bitの画像ファイルを扱うことも少なくないからです。16bitでは何万階調もあります。それに比べれば10bitは千階調ですから、ずいぶん色数が少ないと考えることもできます。
"10bit"の説明はこのへんで終わりにして、"Cineon Log"の説明をしましょう。この話は少しだけ長くなるかもしれません。
コンピューター用語でログファイル(Log File)と言えば、記録ファイルのことです。この言葉は航海日誌(Logbook)という言葉に由来し、さらに語源をさかのぼると丸太(Log)を海に浮かべたことから来ているそうです。しかし、Cineon 10bit Logの"Log"は、これらとは一切関係がありません。この"Log"が何なのかは後で分かります。
Cineon 10bit Logというカラースペースは、DPXの元になったCineon(シネオン)というファイルの特徴をそのまま受け継いだものです。ですから、まずはCineonの誕生に遡りたいと思います。
アメリカのイーストマン・コダック社といえば、19世紀から続く有名な写真用品メーカーです。フィルムや印画紙の販売で知られていますが、昔から映画のフィルムも生産しています。映画のエンドロールの中に、Kodakのロゴを見たことがあるかもしれません。

1993年、ちょうどコンピューターが普及してきたころ、Kodakはコンピューターシステム"Cineon"を生み出しました。これは「映画のフィルムをデジタル化してコンピューターで映像を合成し、再び映画のフィルムに戻す」という当時最先端のシステムでした。

最終的にこのシステムは廃止されましたが、ここで使用されていた画像データ形式はCineonファイル(拡張子.cin)として残り、映画業界で使われ続けました。そして2003年、SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)はCineonファイル形式をDPX(Digital Picture Exchange)という規格に拡張しました。このファイルはそもそもアメリカの映画業界でフィルムのために開発された画像形式なのです。では、もう少し詳しくフィルムの話をしてみましょう。
最近では見る機会がないかもしれませんが、写真や映画の撮影に使われたネガフィルム(Negative Film)は、現実世界に溢れる光を実に巧みに記録する仕組みを持っていました。ネガフィルムは、撮影する前は透明です。そこに光を当てる(露光する)と透明だったネガフィルムが光の量に応じて暗く不透明になります。明るさが反転して見えるためネガ(Negative, 否定・反対)と呼びます。

ネガフィルムにはいくつか特筆すべき点があります。1つは広いラティチュードです。デジタル風に言えば「広いダイナミックレンジ」です。コンポジターのマーク・クリスティアンセン氏曰く、「Kodakの公式見解によると、モニタの最大の輝度が1.0とすると、フィルムが表現できる最大の輝度値は13.53です」(1)。テレビやPCのモニターは、最も明るい色でもロウソクの炎のような明るさはありません。しかし、ネガフィルムにはモニターの白の13.5倍もの光が記録されています。
もう1つのネガフィルムの特徴は、対数反応です。ネガフィルムは、光に対して一律な反応を示すわけではありません。現実世界の光はリニアだと言われます。光の量が2倍になれば、明るさも2倍になるのがリニアの世界です。グラフにすると単純な直線になるため、リニア(linear, 直線)であると言います。

しかし、ネガフィルムの光に対する反応はリニアではありません。「露光量が少ない部分では不透明度(濃度)が急激に増加し、露光量が増えるにつれてフィルムの反応が鈍くなっていく」とコンポジターのスティーブ・ライト氏は説明します(2)。横軸をリニア表記の露光量、縦軸をネガの不透明度(どれほど不透明になるかの度合い)にしたグラフを描くと、最初は急激に上昇しますが、どんどん緩やかになっていく曲線になります。

この歪んだ曲線は数学用語で「対数曲線」と呼ばれるものです。対数とは何でしょうか?
あなたはもう対数を知っているかもしれません。コンピューターの計算単位である「bit」は、まさに対数です。2をべき乗(累乗)する回数を表しています。1bitと言ったら2、2bitと言ったら4、4bitと言ったら16、8bitと言ったら256、10bitと言ったら1024……。

対数は、巨大な数字をコンパクトな数字に置き換えて呼ぶ便利な魔法です。16世紀末に発見され、計算機が誕生する以前はさまざまな分野で使われていました。対数とは結局のところ、「何回掛けるか」を意味するべき乗指数です。たとえば「2の8乗は256」ですが、この場合、「8は2を底とする256の対数である」と言います。対数は英語でLogarithm(ロガリズム)、通常Log(ログ)と呼びます。

ネガフィルムが光に対して対数の反応をするという話は分かりました。ネガフィルムをデジタルデータに変換しましょう。しかし、スティーブ・ライト氏によると、リニアのデータにするのは問題があるようです。データサイズが膨大になる一方で、人間の目にとってはデータが不足してしまう問題があるためです。
スティーブ・ライト氏によれば、人間の目のダイナミックレンジは非常に広く、フィルムの約4倍だと言います。「この広大な輝度範囲に対応するために、目は輝度が上がると感度が鈍くなるというノンリニアな反応をします。(略)目の反応を数学的に表現すれば、最も近いのは『対数』反応になるでしょう」とスティーブ・ライト氏は述べます(3)。どうやら人間の目もまたフィルムと同じように対数の反応をするようです。

マーク・クリスティアンセン氏曰く、「人間の目も色に対してノンリニアに反応することが分かっています。人間の視覚は、微光を明るく調整し、薄暗くてもみえるようにします。これは生きていくために必要とされる機能です。人間の目は微量の光に非常に敏感に反応し、明るさが増加するにつれて反応の敏感さが薄れます」(4)。

人間の目は、反射率2%の紙を「黒」と認識し、反射率90%の紙を「白」と認識します。では「中間のグレー」は何%でしょうか?人間の目が中間のグレーに感じるのは、驚くほど反射率の低い、反射率18%の紙です。

適正露出の写真を撮るときの指針とされる18%グレーカードには、いつも「なぜ18%なのか?」という質問がついてまわります。簡潔に言えば「それが中間の明るさに見えるから」です。スティーブ・ライト氏曰く、「18%グレーのカードは環境光の18%しか反射しませんが、目のlog反応により、黒と白のリファレンスポイントの中間ポイントとなる50%として見えます」(5)。
これが意味するのは、人間には弱い光にこそ大量の階調が必要だということです。そうでなければ、人間の目はバンディング(マッハバンド)と呼ばれる階調割れを見つけてしまいます。暗いエリアには豊富な階調を表現できる膨大なデータが必要なのです。一方で、画像の明るい部分は、大雑把な階調で十分です。人間の目にとって極めて重要なのは、先ほどのグラフの左下の狭いエリアです。

もちろん広いダイナミックレンジのデータも保存したいのですが、明るい部分のデータは「飛ばし飛ばし」でも問題ありません。人間の目はギラギラした光の明るさの違いはあまり感じ取れないからです。そこで、このグラフの全体を保存しつつ、左下を拡大する変換が必要になります。ここで対数(Log)という数学が役に立ちます。
グラフの目盛を対数表記に変更します。横軸は露光量の対数(Log Exposure)、縦軸は不透明度の対数(Log of Opacity)、つまり濃度(Density) に変わります。そこに現れるのは有名なS字カーブの特性曲線、19世紀に発案されたHurter–Driffield曲線です。

別のグラフに見えますが、基本的には先ほどと同じグラフです。単位が対数になったので、カーブの形が変わりました。10は10の1乗、100は10の2乗、1000は10の3乗です。先ほどのグラフの値を、10を底とする対数表記にしただけです。
対数表記のグラフは人間にとって都合の良いデータになっています。広いダイナミックレンジをカバーしながら、人間の目にとって重要な「光の弱い部分」を引き伸ばし、人間の目が鈍感な「強烈な光の部分」をぎゅっと圧縮しています。このフィルム濃度を10bitでデジタルデータ化したものが、Cineonファイルです。マーク・クリスティアンセン氏曰く、「Cineonファイルはログカラースペースで保存されるとよく言われます。実際にはログ反応曲線を描くのはネガで、ファイルは単にネガの各ピクセルの濃度を保存します」(6)。
10bit Logの特徴はDPXに受け継がれました。フィルムは「対数的にデジタル化するのがベストである」とスティーブ・ライト氏は言います(7)。Logでのデジタル化の大きなメリットは、モニターの13.5倍の光という広大なダイナミックレンジを保存しながら、同時にデータを驚くほど小さくできる点です。現在ではフィルム撮影からデジタルシネマカメラによる撮影に移行しましたが、データの保存にはLog画像が使用され続けています。それどころかLogの規格は増えてきています。近年ではLog-C、REDLogFilm、CanonLog、S-Logなど、Cineon以外のLogのカラースペースが増えているため、画像の取り扱いには注意が必要です。
Logスペースの画像データは、良いことばかりではありません。とりあえず、大きな問題が1つあります。普通のモニターに出力すると非常にコントラストの低い画像として表示されることです。

Log画像はべき乗指数のデータのため、そのままでは適切に表示されません。Log画像はネガフィルムを効率的に保存するための形式であり、人間にそのまま見せるためのものではないのです。
そこで必要になってくるのがView LUT(ビューラット)です。表示用LUTとかモニタリング用LUTと言う場合もあるかもしれません。LUTというのはLook Up Table(ルックアップテーブル)の略で、簡単に言えば「あるデータを別の形に変換するためのデータ」のことです。View LUTを通すと、適切な見た目でモニターに表示されるようになります。

LUTには1DLUT(ワンディーラット)と3DLUT(スリーディーラット)というタイプがあり、ファイル形式もさまざまです。After Effetcsのトーンカーブ形式の場合もあれば、LUT専用のファイル形式(.cube, .look, .3dl, .lut, .cspなど)が使われる場合もあります。
View LUTについて、コンポジターが正しく認識しておくべき注意点があります。View LUTで変換したデータを使って合成するのは誤りです。View LUTを使って素材を変換してしまうと、Logに戻せないという問題が発生します。一般的に、素材がLogの場合はLogで納品しなければなりません。View LUTは確認するためだけのものです。
こんなに長いページの下の方までお付き合いいただき、ありがとうございます!今回は映画のVFX制作で使用するDPXを紹介してみました(厳密に言えばCineon 10bit Logスペースについて、です)。
さて、コンポジターには「Log画像をどう扱うべきか?」という問題が残されています。対数、つまりべき乗指数であるLog画像をいつもと同じように扱って良いのでしょうか?これも長い話になるかもしれません。いつかまた、別の時に話すことにしましょう!
VFX制作でDPXが使用されると言っても、3DCGのレンダリング画像を保存するわけではありません。DPXは、主にカメラで撮影された実写映像を保存するために使われます。そしてVFX(CG合成)やDI(デジタル・インターミディエイト)、グレーディングと言った映画の仕上げ作業に利用されています。今回は、そんなDPXの優れている点を簡単に紹介してみたいと思います。
Cineon 10bit Log
DPXは、最近では(お馴染みのビデオスペースを始め)さまざまなカラースペースで保存されることも増えています。しかし、もともとは"Cineon 10bit Log"(シネオン テンビット ログ)という特殊なカラースペースで保存されることで有名です。そこで、この記事ではCineon 10bit Logスペースについて解説したいと思います。
まずは"10bit"の部分から説明しましょう。10bitというのは色深度(ビット深度)のことで、その画像がどれだけ豊かな階調を表現できるかを意味しています。たとえば一般的なJPEGは8bitの画像で、RGBの各チャンネルに256階調があります。bit(ビット)はコンピューターの計算単位で、1bitでは0か1か(白か黒か)しか表現できません。2bit, 3bitと増えていくほど2をべき乗(るい乗)していくので、階調はどんどん増えていきます。8bitは2の8乗で256階調。10bitは2の10乗で、1024階調あります。
色深度について初めて知った方は、「色鉛筆のセット」を想像すると分かりやすいでしょう。12色の色鉛筆のセットより、36色のセットの方が、微妙な色の違いまで描き分けることができます。それと同じで、bit数が増えるほど色数が増えます。ただしデータサイズは大きくなり、処理は重くなります。
10bitは8bitの4倍の階調があり、より多くの色を表現できます。しかし10bitは本当に色数が多いと言えるのでしょうか?というのは、現在では16bitの画像ファイルを扱うことも少なくないからです。16bitでは何万階調もあります。それに比べれば10bitは千階調ですから、ずいぶん色数が少ないと考えることもできます。
"10bit"の説明はこのへんで終わりにして、"Cineon Log"の説明をしましょう。この話は少しだけ長くなるかもしれません。
コンピューター用語でログファイル(Log File)と言えば、記録ファイルのことです。この言葉は航海日誌(Logbook)という言葉に由来し、さらに語源をさかのぼると丸太(Log)を海に浮かべたことから来ているそうです。しかし、Cineon 10bit Logの"Log"は、これらとは一切関係がありません。この"Log"が何なのかは後で分かります。
Cineon 10bit Logというカラースペースは、DPXの元になったCineon(シネオン)というファイルの特徴をそのまま受け継いだものです。ですから、まずはCineonの誕生に遡りたいと思います。
KodakのCineonシステム
アメリカのイーストマン・コダック社といえば、19世紀から続く有名な写真用品メーカーです。フィルムや印画紙の販売で知られていますが、昔から映画のフィルムも生産しています。映画のエンドロールの中に、Kodakのロゴを見たことがあるかもしれません。
1993年、ちょうどコンピューターが普及してきたころ、Kodakはコンピューターシステム"Cineon"を生み出しました。これは「映画のフィルムをデジタル化してコンピューターで映像を合成し、再び映画のフィルムに戻す」という当時最先端のシステムでした。
最終的にこのシステムは廃止されましたが、ここで使用されていた画像データ形式はCineonファイル(拡張子.cin)として残り、映画業界で使われ続けました。そして2003年、SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)はCineonファイル形式をDPX(Digital Picture Exchange)という規格に拡張しました。このファイルはそもそもアメリカの映画業界でフィルムのために開発された画像形式なのです。では、もう少し詳しくフィルムの話をしてみましょう。
ネガフィルムの特性
最近では見る機会がないかもしれませんが、写真や映画の撮影に使われたネガフィルム(Negative Film)は、現実世界に溢れる光を実に巧みに記録する仕組みを持っていました。ネガフィルムは、撮影する前は透明です。そこに光を当てる(露光する)と透明だったネガフィルムが光の量に応じて暗く不透明になります。明るさが反転して見えるためネガ(Negative, 否定・反対)と呼びます。
ネガフィルムにはいくつか特筆すべき点があります。1つは広いラティチュードです。デジタル風に言えば「広いダイナミックレンジ」です。コンポジターのマーク・クリスティアンセン氏曰く、「Kodakの公式見解によると、モニタの最大の輝度が1.0とすると、フィルムが表現できる最大の輝度値は13.53です」(1)。テレビやPCのモニターは、最も明るい色でもロウソクの炎のような明るさはありません。しかし、ネガフィルムにはモニターの白の13.5倍もの光が記録されています。
もう1つのネガフィルムの特徴は、対数反応です。ネガフィルムは、光に対して一律な反応を示すわけではありません。現実世界の光はリニアだと言われます。光の量が2倍になれば、明るさも2倍になるのがリニアの世界です。グラフにすると単純な直線になるため、リニア(linear, 直線)であると言います。
しかし、ネガフィルムの光に対する反応はリニアではありません。「露光量が少ない部分では不透明度(濃度)が急激に増加し、露光量が増えるにつれてフィルムの反応が鈍くなっていく」とコンポジターのスティーブ・ライト氏は説明します(2)。横軸をリニア表記の露光量、縦軸をネガの不透明度(どれほど不透明になるかの度合い)にしたグラフを描くと、最初は急激に上昇しますが、どんどん緩やかになっていく曲線になります。
この歪んだ曲線は数学用語で「対数曲線」と呼ばれるものです。対数とは何でしょうか?
対数
あなたはもう対数を知っているかもしれません。コンピューターの計算単位である「bit」は、まさに対数です。2をべき乗(累乗)する回数を表しています。1bitと言ったら2、2bitと言ったら4、4bitと言ったら16、8bitと言ったら256、10bitと言ったら1024……。
対数は、巨大な数字をコンパクトな数字に置き換えて呼ぶ便利な魔法です。16世紀末に発見され、計算機が誕生する以前はさまざまな分野で使われていました。対数とは結局のところ、「何回掛けるか」を意味するべき乗指数です。たとえば「2の8乗は256」ですが、この場合、「8は2を底とする256の対数である」と言います。対数は英語でLogarithm(ロガリズム)、通常Log(ログ)と呼びます。
ネガフィルムが光に対して対数の反応をするという話は分かりました。ネガフィルムをデジタルデータに変換しましょう。しかし、スティーブ・ライト氏によると、リニアのデータにするのは問題があるようです。データサイズが膨大になる一方で、人間の目にとってはデータが不足してしまう問題があるためです。
人間の視覚
スティーブ・ライト氏によれば、人間の目のダイナミックレンジは非常に広く、フィルムの約4倍だと言います。「この広大な輝度範囲に対応するために、目は輝度が上がると感度が鈍くなるというノンリニアな反応をします。(略)目の反応を数学的に表現すれば、最も近いのは『対数』反応になるでしょう」とスティーブ・ライト氏は述べます(3)。どうやら人間の目もまたフィルムと同じように対数の反応をするようです。
マーク・クリスティアンセン氏曰く、「人間の目も色に対してノンリニアに反応することが分かっています。人間の視覚は、微光を明るく調整し、薄暗くてもみえるようにします。これは生きていくために必要とされる機能です。人間の目は微量の光に非常に敏感に反応し、明るさが増加するにつれて反応の敏感さが薄れます」(4)。
人間の目は、反射率2%の紙を「黒」と認識し、反射率90%の紙を「白」と認識します。では「中間のグレー」は何%でしょうか?人間の目が中間のグレーに感じるのは、驚くほど反射率の低い、反射率18%の紙です。
適正露出の写真を撮るときの指針とされる18%グレーカードには、いつも「なぜ18%なのか?」という質問がついてまわります。簡潔に言えば「それが中間の明るさに見えるから」です。スティーブ・ライト氏曰く、「18%グレーのカードは環境光の18%しか反射しませんが、目のlog反応により、黒と白のリファレンスポイントの中間ポイントとなる50%として見えます」(5)。
これが意味するのは、人間には弱い光にこそ大量の階調が必要だということです。そうでなければ、人間の目はバンディング(マッハバンド)と呼ばれる階調割れを見つけてしまいます。暗いエリアには豊富な階調を表現できる膨大なデータが必要なのです。一方で、画像の明るい部分は、大雑把な階調で十分です。人間の目にとって極めて重要なのは、先ほどのグラフの左下の狭いエリアです。
もちろん広いダイナミックレンジのデータも保存したいのですが、明るい部分のデータは「飛ばし飛ばし」でも問題ありません。人間の目はギラギラした光の明るさの違いはあまり感じ取れないからです。そこで、このグラフの全体を保存しつつ、左下を拡大する変換が必要になります。ここで対数(Log)という数学が役に立ちます。
Logスペース
グラフの目盛を対数表記に変更します。横軸は露光量の対数(Log Exposure)、縦軸は不透明度の対数(Log of Opacity)、つまり濃度(Density) に変わります。そこに現れるのは有名なS字カーブの特性曲線、19世紀に発案されたHurter–Driffield曲線です。
別のグラフに見えますが、基本的には先ほどと同じグラフです。単位が対数になったので、カーブの形が変わりました。10は10の1乗、100は10の2乗、1000は10の3乗です。先ほどのグラフの値を、10を底とする対数表記にしただけです。
対数表記のグラフは人間にとって都合の良いデータになっています。広いダイナミックレンジをカバーしながら、人間の目にとって重要な「光の弱い部分」を引き伸ばし、人間の目が鈍感な「強烈な光の部分」をぎゅっと圧縮しています。このフィルム濃度を10bitでデジタルデータ化したものが、Cineonファイルです。マーク・クリスティアンセン氏曰く、「Cineonファイルはログカラースペースで保存されるとよく言われます。実際にはログ反応曲線を描くのはネガで、ファイルは単にネガの各ピクセルの濃度を保存します」(6)。
10bit Logの特徴はDPXに受け継がれました。フィルムは「対数的にデジタル化するのがベストである」とスティーブ・ライト氏は言います(7)。Logでのデジタル化の大きなメリットは、モニターの13.5倍の光という広大なダイナミックレンジを保存しながら、同時にデータを驚くほど小さくできる点です。現在ではフィルム撮影からデジタルシネマカメラによる撮影に移行しましたが、データの保存にはLog画像が使用され続けています。それどころかLogの規格は増えてきています。近年ではLog-C、REDLogFilm、CanonLog、S-Logなど、Cineon以外のLogのカラースペースが増えているため、画像の取り扱いには注意が必要です。
View LUT
Logスペースの画像データは、良いことばかりではありません。とりあえず、大きな問題が1つあります。普通のモニターに出力すると非常にコントラストの低い画像として表示されることです。
Log画像はべき乗指数のデータのため、そのままでは適切に表示されません。Log画像はネガフィルムを効率的に保存するための形式であり、人間にそのまま見せるためのものではないのです。
そこで必要になってくるのがView LUT(ビューラット)です。表示用LUTとかモニタリング用LUTと言う場合もあるかもしれません。LUTというのはLook Up Table(ルックアップテーブル)の略で、簡単に言えば「あるデータを別の形に変換するためのデータ」のことです。View LUTを通すと、適切な見た目でモニターに表示されるようになります。
LUTには1DLUT(ワンディーラット)と3DLUT(スリーディーラット)というタイプがあり、ファイル形式もさまざまです。After Effetcsのトーンカーブ形式の場合もあれば、LUT専用のファイル形式(.cube, .look, .3dl, .lut, .cspなど)が使われる場合もあります。
View LUTについて、コンポジターが正しく認識しておくべき注意点があります。View LUTで変換したデータを使って合成するのは誤りです。View LUTを使って素材を変換してしまうと、Logに戻せないという問題が発生します。一般的に、素材がLogの場合はLogで納品しなければなりません。View LUTは確認するためだけのものです。
最後に
こんなに長いページの下の方までお付き合いいただき、ありがとうございます!今回は映画のVFX制作で使用するDPXを紹介してみました(厳密に言えばCineon 10bit Logスペースについて、です)。
さて、コンポジターには「Log画像をどう扱うべきか?」という問題が残されています。対数、つまりべき乗指数であるLog画像をいつもと同じように扱って良いのでしょうか?これも長い話になるかもしれません。いつかまた、別の時に話すことにしましょう!
参考文献
1. Christiansen, Mark. Adobe After Effects CS4 Visual Effects and Compositing Studio Techniques. Adobe Press, 2008. (マーク・クリスティアンセン, Bスプラウト訳. 『After Effects CS4 スタジオテクニック プロが教える効果的なビジュアルエフェクトとコンポジット
』. ボーンデジタル, 2009(以下、『After Effects CS4 スタジオテクニック』と記す), p.366.)
2. Wright, Steve. Digital Compositing for Film And Video Third Edition. Focal Press, 2010. (スティーブ・ライト, Bスプラウト訳. 『ノードベースのデジタルコンポジット -コンポジターのための理論と手法-
』. ボーンデジタル, 2012(以下、『ノードベースのデジタルコンポジット』と記す), p.325.)
3.前掲『ノードベースのデジタルコンポジット』 p.323.
4.前掲『After Effects CS4 スタジオテクニック』 p.370.
5.前掲『ノードベースのデジタルコンポジット』 p.330.
6.前掲『After Effects CS4 スタジオテクニック』 p.367.
7.前掲『ノードベースのデジタルコンポジット』 p.331.
1. Christiansen, Mark. Adobe After Effects CS4 Visual Effects and Compositing Studio Techniques. Adobe Press, 2008. (マーク・クリスティアンセン, Bスプラウト訳. 『After Effects CS4 スタジオテクニック プロが教える効果的なビジュアルエフェクトとコンポジット
2. Wright, Steve. Digital Compositing for Film And Video Third Edition. Focal Press, 2010. (スティーブ・ライト, Bスプラウト訳. 『ノードベースのデジタルコンポジット -コンポジターのための理論と手法-
3.前掲『ノードベースのデジタルコンポジット』 p.323.
4.前掲『After Effects CS4 スタジオテクニック』 p.370.
5.前掲『ノードベースのデジタルコンポジット』 p.330.
6.前掲『After Effects CS4 スタジオテクニック』 p.367.
7.前掲『ノードベースのデジタルコンポジット』 p.331.
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