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立川談笑、らくご「虎の穴」

ある師走の経験 事前の打ち合わせは入念に! 立川笑二

 

2016/12/11

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 師匠と兄弟子の吉笑とともにリレー形式で連載させていただいている、まくら投げ企画14周目。今回の師匠からのお題は「師走」。

 一昨年の暮れの出来事。私の地元、沖縄県のとある町から仕事の依頼があった。

 その仕事の内容は社会福祉大会という、1年間でボランティア活動に貢献した方を表彰するイベントの余興で落語をやってほしいというものだった。

 本番当日は朝からイベントが行われているので、前日に会場に来て照明や音響などの舞台チェックをしてほしいということだったので、私は前日に会場に入り、舞台チェックをしていた。

高座に上がる立川笑二さん(東京都武蔵野市) 

 その舞台チェックが済んだ後、主催者の方が「笑二さんに紹介したい方がいる」とのこと。そこには私と同年代ぐらいのきれいな女性が立っていた。

 「この方が、あす、笑二さんの隣で落語を手話で通訳してくださる方ですので」と主催者さん。

 本番で私の落語に手話通訳がつくという話は初耳だった。

 どういうことなのか尋ねてみると、今回のメーンのイベントは社会福祉大会であり当日の客席には耳の不自由な方もいるので手話が必要とのこと。

 その事情を聞くと納得できるけど、重要なことは依頼の段階で事前に教えておいてほしかった。

 「なぜ事前に手話がつくと教えてくれなかったんですか?」

 と尋ねると

 「あー、聞かれなかったので」

 と主催者さん。

 俺が悪いのか!?と思いながらも、さらに大変なことに気付いてしまった。

 私は余興というポジションだが持ち時間は60分とたっぷりあったため「鼠穴(ねずみあな)」という落語の演目をネタ出し(事前に演目名を発表)してしまっていたのだ。

 「鼠穴」とは40分程ある古典落語の大ネタで、シリアスなシーンの多い人情噺(ばなし)だ。

 また、この落語のメーンになるのが田舎者の兄弟なので、独特のなまりがあるうえに方言のような難しい単語も出てくる。

 この落語を事前にテキストにして渡しているのならまだしも、リアルタイムで手話通訳するのは相当難しいはずなのだ。

 さらに、手話通訳というのはかなり疲れる作業であるため、連続で15分しかできないという。

 そのため、本番当日には3人の手話通訳者が来て2人は舞台袖で待機し、15分ごとに入れ替わっていくそうだ。

 これは困った。「鼠穴」のシリアスなシーンを演じているときに手話通訳者が交替すると、私の実力ではお客様の集中力をつなぎとめることができない。

 そこで私は、

 「これから40分ある鼠穴をフルで演じてみるので、交替するポイントを決めていきましょう」

 と提案してみたが

 「いえ、慣れてますから心配ありません」

 と手話通訳の女性。

 「難しい単語もいっぱい出てくるので合わせた方がいいですよ」

 と食い下がってみたが

 「絶対に大丈夫ですから」

 と、かたくなに断られてしまい、手話通訳はぶっつけ本番で行われることになった。

 

 そして迎えた、本番当日。

 いざ出番というときに舞台袖に行くと手話通訳者のきれいな女性が3人並んでいる。

 「よろしくお願いします」

 と私が頭を下げたとき、3人の足元をみて驚いた。

 3人ともハイヒールを履いているのだ。

 ハイヒールを履いているということは、15分ごとの入れ替わりのたびに「コツコツコツコツ」という音が舞台上で響き渡ってしまう。

 しかし、これも前日に

 「あすはハイヒールですか?」

 と聞かなかった私が悪いのだろう。

 

 その場で「履物を替えてくれ」とも言えないまま余興の落語会が始まった。

 「鼠穴」を演じる前に、20分ほどまくらをしゃべると、地元ということもあって大盛り上がり。そこまでは交替時のハイヒールの足音もほとんど気にならなかったのだが、案の定、「鼠穴」を始めるとシーンとした客席に「コツ、コツ、コツ、コツ」という足音が響き渡った。

 その上、入れ替わるタイミングが……良くない。一番じっくり聞いてほしいところで「コツ、コツ、コツ、コツ」と響き渡る。

 全然大丈夫じゃないじゃないか!と思いながらもなんとか「鼠穴」をやり終えたのだが、私の落語中に、もう一つの事件が起きていた。

 

 その落語会の公演中、私は手話通訳者が控えている側の舞台袖にボイスレコーダーを置いて自分の落語を録音していた。

 東京に戻る飛行機の中で音源を聞き直していると、「鼠穴」をやり始めて15分たったころに手話通訳者が交替する時間が来たのだろう。

 コツン、コツン、コツン、コツ、コツ、コツ、コッ、コッ、ッ、ッ

 という舞台袖から出ていくハイヒールの足音が入っていた。入れ替わって舞台袖へと戻ってくる人の足音も入っている。

 ッ、ッ、コッ、コッ、コツ、コツ、コツ、コツン、コツン、コツン

 そして舞台袖に戻ってきた人が待機しているもう一人の手話通訳者に言ったセリフが…。

 「ムリ!ムリ! 何言ってるか全然わからないっ!」

 

 うわああああああああああ!

 これからは落語会出演の依頼があったら、当日の段取りを含めた打ち合わせや聞き取りは入念に行おうと決めた瞬間だった。

 師走になると「鼠穴」を多くの落語家がやるため、袖で聞いてはこの出来事を思い出す。そんな14投目。

 少し早いですが、みなさま、よいお年を。えーっと、次回18日は兄弟子の吉笑、25日は師匠……。えっ、私の次の出番は1月1日!!!

(次回、18日は立川吉笑さんの予定です)

立川笑二さん

立川笑二(たてかわしょうじ)。1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子は「てぃんさぐぬ花」。立川談笑一門会(11月25日、12月25日)のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。ホームページは、http://tatekawashouji.com/

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