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【社説】

イチエフ 廃炉の現場から<1> 日常は帰ってくるか

 時間が凍りついたままの帰還困難区域を抜けて、タンクの森に分け入った。イチエフ。福島第一原発だ。放射能汚染水を保管する約九百基の貯水タンクが、いやでも目に留まる。

 構内の地面の九割はコンクリートで覆われて、放射能を含むダストが抑えられ、作業性も高まった。雨水が染み込むのを防ぐ意味もある。

 移動だけなら、防護服や全面マスクは必要ない。“グリーン装備”という普段着に近い軽装で、“三十五メートル盤”と呼ばれる台地の突端の高台へと歩く。1号機まで八十メートル。線量は一五〇マイクロシーベルトに跳ね上がり、ポケット線量計のアラームが、けたたましく鳴った。

 斜面の先に銀色の太いパイプが見えた。山側から流れ込む地下水が原発の建屋の中へ流れ込むのをせき止める凍土壁の配管だ。汚染水を止めるのは本格的廃炉作業の大前提の一つである。

 延長一・五キロ。マイナス三〇度の凍結液を建屋の周りに巡らせて、土中に氷の壁を張る。

 「凍結管の近くに氷の壁はできている。壁の前後で水位差もついている。あとは海側でくみ上げられる水量がどれだけ減るか。今月中に成否が判断される」と東電広報室。「再来年までに建物の汚染水をすべて片付けたい」という。だが、どこへ−。

 軽装で動けるようになり、六千人という廃炉作業員の肉体的な負担は軽減されている。

 三月、イチエフ構内でコンビニが営業を開始した=写真、代表撮影。昨年六月には近くに給食センターがオープンし、温かいランチが食べられるようにもなった。コンビニでは甘い物、特にシュークリームが人気という。

 「普通の暮らしが戻ってきたみたいな気分」と作業員。

 あれから五年。イチエフにはこんなささやかな日常が、ようやく帰ってきたところ−。

      ◇

 四十年。イチエフの廃炉にかかる年月だ。その意味を皆さんと一緒に考えたい。

 

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