トルコのイスタンブールで10日に起きた爆弾テロは、同国が複数の危険にさらされているという恐ろしい事実を再認識させた。テロと経済の弱体化には、破壊力を互いに高め合う作用がある。同国のエルドアン大統領は、独裁政治と愛国心で安定が取り戻せると考えている。だが、それは誤りだ。
ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利して以来、トルコリラはドルに対して9%下落しており、9月の初めからだと15%の下落になる。エルドアン氏はこのリラ安の原因は「投機」にあると非難しており、リラに起きている状況を過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威にたとえて、国民に外貨を本国に還流させるよう呼びかけた。だが、この方法は一番うまくいかないだろう。
トランプ氏が財政による大規模な景気刺激策に乗りだすとの期待から、米長期債の金利とドルは上昇している。だが、この影響はすべての通貨に均等に及んでいるわけではない。トルコリラはメキシコペソに次いで最も大きな損失を被った。
ところが、先週リラは安定した。一つには、おそらく、エルドアン氏が嘆願したことで市場が反応したのだろう。また、トルコ中央銀行が2014年1月以来初めてレポ金利の引き上げを決定したことも理由だろう。さらに重要な要因として、新興国の通貨価値の上昇も挙げられる。「トランプ氏が起こしたかんしゃく」は当面収まったのかもしれない。
だが、問題はなぜリラがそこまで弱かったのかということだ。メキシコペソのもろさは、同国経済が米国に依存しており、トランプ氏の保護主義政策に左右されやすいことからきている。トルコリラが不安定である一因は、同国の巨額の経常赤字と民間部門の多額の外貨建て債務にある。また、イラクやシリアの内戦、クーデター未遂などイスタンブールで週末に爆破テロが起こる前から同国を次々と襲ってきた政治を揺るがす出来事も要因であるはずだ。さらに、金利水準の引き上げに反対するなどしているエルドアン氏の独裁的な振る舞いも要因であるに違いない。
■色あせる投資先としての魅力
今回の爆弾テロは、エルドアン氏の率いる党が同氏の大統領権限を強化し、任期を延長できる憲法改正案を発表した直後に起きた。トルコは外国資本にとって投資先としての魅力を大幅に失いつつある。
民間の非金融系企業部門は約2100億ドルの外貨建て債務を抱えている。この対外債務は、公共部門の純債務を今年、国内総生産(GDP)の23%にまで削減できたにもかかわらず、埋め合わせきれないほどだ。リラが下落して金利が上昇する中、同国企業の債務返済負担は拡大し、悪循環に陥っている。
とりわけ、通貨リラの安定や経済の安定自体も膨大な純資本流入があるかどうかにかかっている。国際通貨基金(IMF)は今年の経常赤字をGDPの4.4%と見積もっている。これが来年は5.6%に増加するとみられている。
また、トルコは投資の資金調達だけでも膨大な純資本流入を必要としている。IMFの予想では、16年の同国の国内総貯蓄はGDPの13%にとどまる見込みだ。資本流入がなければ、トルコは通貨危機だけでなく、成長の低下にも苦しむだろう。12年から16年の平均成長率は年率3.3%と不十分だったが、外資の流入なしではこの水準さえも実現不可能だったろう。
エルドアン氏は外国を威圧して自国に投資させることはできない。経済の好調が政治の安定には欠かせない条件だ。そのために必要なのは、リベラルな改革を行い、貯蓄率を向上させ、外資が流れ込みやすい環境を整えることだ。それができた時はじめて、トルコには、同国のトップが望み、国民が切実に求める経済成長や政治の安定を実現できる十分な可能性が生まれるだろう。
(2016年12月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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