松平健 苦しくても、時代劇を残していってほしい
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映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、松平健が、製作本数も減りスタッフの後継者不足が危惧されるなか、時代劇役者として第一線に立ち続ける心境を語った言葉からお届けする。
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松平健は1979年、NHK大河ドラマ『草燃える』に出演している。鎌倉幕府草創期の権力闘争を描いた本作で、松平は第二代執権となる北条義時を演じた。義時は当初は好青年だったが、終盤になると政敵を陥れていく野心家に変貌する。当時の松平は『暴れん坊将軍』では庶民のヒーロー・吉宗を演じており、対極的な権力者役を同時期にこなしていたことになる。
「あの頃は東京と京都を行き来して、一週間のうち3日を東京で『草燃える』、あとの4日は京都で『暴れん坊』に出るという生活でした、全く違う男なので、面白かったですね。扮装を変えたら、自然とスイッチの切り替えはできていました。
義時は最初『最後に天下を取る男』ということしか聞かされていませんでした。大事にしたのは目ですね。『天下を取る』というハッキリした目標に進む役なので、とにかくギラギラした目で演じました。天下を取るために邪魔者は排除していく。そういう人間を演じるには、何もないところからは出てきません。誰しもきっと持っている裏の部分といいますか、悪いところを芝居で出す時は『もし、自分ならどうするか』から考えます。
その時に参考になったのが、勝先生の映画『不知火検校』でした。女を利用してのし上がっていく男の話で、酷い男なんですが。あの時の先生の芝居を観ながら、ああいう役の場合は欲望や自分自身の気持ちを出さないといけないと思いましたね」
近年はミュージカルに挑戦、『王様と私』は当り役になった。
「初めてブロードウェイに行った時、英語が分からないのに凄く楽しかったんですよ。歌と音楽でこれだけ楽しいのか、と。『感じる』ということの大切さを知りました。
舞台と映像では、演じ方は変わるかもしれませんね。舞台はその都度で観客の反応が違うので。『これが面白いんだ』とお客さんに教えてもらう時があります。稽古中と本番では、ウケるところが違うんですよ。もちろん、あまりオーバーにやると芝居全体がおかしくなりますが、意識はします」
時代劇は製作本数も減り、苦しい状況が続いている。そうした中にあって、松平は主役だけでなく近年は時代劇で脇役でも登場、第一線に立ち続ける。
「時代劇を残していってほしいと思います。時代劇はお金がかかる。これはしょうがないです。それにカメラも感度が上がってきて、地毛を使った総髪の設定が多くなってきました。でも、それでは綺麗な時代劇にはなりません。極端な変え方はしてほしくないんですよね。このまま本数が減って、結髪にしても、美術にしても後継者がいなくなってしまうのが心配です。
それは役者も同じです。所作にしても、大河ドラマでしたらご指導の先生が付きますが、なかなか個人個人の細かいところまでは目が届かないんですよ。それで僕も少しアドバイスすることもありますが、監督もいますからね。そこまで出しゃばっていいのか。役者自身が役によっての所作を自分自身で意識してくれたらいいなと思います」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年12月16日号
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