長時間労働から「逃げ場」を失う
入社1年目の電通の女性社員が過労自殺した事件は社会に大きなショックを与えた。過去にも同様の例があったとして電通という会社の「体質」を問題視する声も上がった一方で、伝統的な日本企業の「働き方」が問題の根底にあるという指摘も根強い。恒常的な長時間労働から「逃げ場」を失う社員の姿は、決して電通だけの問題ではない。
「人手不足」が深刻化している。求職者1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は10月に1.4倍を記録、バブル期の1991年8月以来、25年2カ月ぶりの高水準となった。全都道府県で1.0倍を超え、東京都では2倍を突破した。人が欲しくても採れない状況になっているのだ。
残業をしないと仕事は終わらない
仕事が増える中で、今働いている既存の社員への荷重は確実に高まっている。毎日残業をしないと仕事が終わらないという人の数が確実に増えているのだ。
もともと日本の「正社員」は「残業が当たり前」という慣行の中で成立してきた。会社に命じられれば、残業も出張も転勤も拒絶するのはなかなか難しい。忙しさの中で追いつめられていく社員は少なくない。自ら命を絶たないまでも、過労によって倒れたり、病死する例が後を絶たないのだ。
厚生労働省が6月に公表した「過労死等の労災補償状況」によると、2015年度の「脳・心臓疾患」による労災申請件数は795件。前年度に比べて32件増えた。業種では運輸業、建設業といった人手不足が深刻な分野が上位に来ている。
過労の末、精神を病む人が急増
請求のうち死亡した例は283件におよぶ。いわゆる「過労死」だ。労災認定された過労死の数は2012年度272件、2013年度290件、2014年度245件と高水準が続いている。目立って増えているわけではないのではないか、という疑問を持つ向きがあるかもしれない。だが、もう1つの気になる統計がある。
同じ厚労省の統計で、「精神障害の労災補償」をみると、請求件数が大きく増えているのだ。2012年度に1257件だったものが、2013年度には1409件、2014年度には1456件となり、2015年度にはついに1500件を突破、1515件となった。うち1306件が労災認定されているが、そのうち205件が自殺である。過労の末、精神を病んでしまう人が劇的に増えており、手を打たなければ過労自殺が急増する可能性が出てきているのだ。