通信傍受の拡大 乱用への歯止めを厳しく
組織犯罪に絡む疑いがある電話やメールを捜査機関が傍受する通信傍受法の対象犯罪が1日から拡大された。薬物、銃器、集団密航、組織的殺人という限定的な4類型に、詐欺、放火、誘拐、児童ポルノなど9類型が追加された。
捜査上、一定の効果はあるとしても、もとより憲法が保障する通信の秘密を侵すとの批判は根強い。強引な捜査手法に対する国民の不信も拭えない。捜査当局は慎重な運用を心掛けるべきだ。
通信傍受法は1999年、オウム真理教事件や暴力団抗争を背景に、組織犯罪対策3法の一つとして制定された。
傍受しなければ組織犯罪を防げない場合の「最後の手段」とされる。対象者の氏名や電話番号、メールアドレスを特定し、裁判所に傍受令状を請求する。傍受内容は証拠となる。警察は高齢者を狙った偽電話による特殊詐欺団の摘発などに効果が期待できるという。
最大の懸案はより身近な犯罪が対象に加わったことで拡大解釈され、一般市民も傍受の対象とされないか-という点である。令状請求の要件は、犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる場合(第3条)としているが、裁判所はより厳重な判断をすべきだ。昨年傍受した約1万4千回のうち犯罪に関連があったのは約5千回だったという。
電話会社社員の立ち会いをなくし、通話内容を暗号化して送ることで警察施設での傍受を今後可能とすることも懸念材料だ。
傍受の拡大は今年成立した刑事司法改革関連法の一環で、録音・録画など取り調べ可視化の一部義務化とセットで実現した。
忘れてはならないのは刑事司法改革の出発点だ。冤罪(えんざい)と認定された鹿児島県の志布志事件など捜査当局による一連の重大な失態への反省である。
大分県警別府署員による隠しカメラ設置事件など行き過ぎた捜査手法の問題は後を絶たない。
乱用につながらないよう厳しいチェックと自制を捜査当局など関係機関に求めたい。
=2016/12/05付 西日本新聞朝刊=