イギリスのEU離脱とドナルド・トランプ氏の米大統領選挙勝利――2016年の世界を揺るがした大きな「変化」を生み出すひとつの要因となったのが、欧米で広がる「反グローバリズム」の波だ。
自由貿易を促進し、人とモノの移動を拡大してきたグローバリズムへの「疑念」がなぜ今、広がりを見せているのか? そして日本は…?
「週プレ外国人記者クラブ」第58回は、英「ガーディアン」紙の東京特派員、ジャスティン・マッカリー氏に話を聞いた――。
***
─マッカリーさんは、イギリスがEU離脱を決めた国民投票とトランプ氏が勝利したアメリカ大統領選挙に多くの共通点があると感じているそうですね?
マッカリー はい、特に大きいのが「反グローバリズム」の高まりが与えた影響です。イギリスでもアメリカでも投票結果を大きく左右したのは、自由貿易に象徴される「経済のグローバル化」が自分たちの生活や雇用を脅かしていると感じている中間層の票だと言われています。「経済成長」を維持するためにグローバル化を進めても、その恩恵を受けているのは一部の大企業やエリート層だけで、「トリクルダウン」なんて起こらない。
それどころか、グローバル化で工場が人件費の安い国外に移転したり、価格の安い輸入品が国内市場に流れ込んだりすることで自分たちの生活や雇用が脅かされ、結果的に格差が広がっていることへの怒りが反グローバリズムの高まりに繋がっています。
─なるほど。仮にグローバリズムで自由貿易を推進して、数字上はGDP(国内総生産)が上がって「経済成長」が実現しても、格差が拡大しているということは、つまり「成長」の果実が一部の人たちに独占されているということですからね。
マッカリー そう、いわゆる「1%」の人たちにね。そうした現実に気づき始めた人たちの怒りがイギリスではEU残留派の政治家や欧州議会に向けられ、アメリカではエスタブリッシュメントと言われるエリート層への反感となって投票結果に大きく影響を与えました。こうした反グローバリズムの流れは、今や英米に限らずヨーロッパ各国でも急速に広がり続けています。
─欧米ではそうした反グローバリズムが排他的な「人種差別主義」や極右的な「愛国主義」と結びついて、一種の「ポピュリズム」(大衆迎合政治)に陥っているようにも見えます。
マッカリー その通りですね。イギリスでEU離脱を訴えた一部の政治家やアメリカ大統領選挙でのトランプ氏は、有権者のグローバリズムに対する反感を「移民問題」や「愛国心」と結びつけることで政治的に利用し、多くの支持を集めることに成功しましたが、それと同じ現象がヨーロッパ各国でも起きています。
先日行なわれたオーストリアの大統領選挙では反EUや移民排斥を訴える極右政党のノルベルト・ホーファー氏が落選しましたが、それでも45%を超える得票を獲得しました。イタリアでも憲法改正の是非を問う国民投票が大差で否決され、マッテオ・レンツィ首相が辞任に追い込まれました。今後はEU懐疑派の「五つ星運動」などのポピュリスト政党がさらに勢いを増すことでしょう。
そして来年春に行なわれるフランス大統領選挙では、極右政党の「国民戦線」を率いるマリーヌ・ル・ペン氏が有力候補のひとりになると言われています。国民戦線の党首が大統領選の有力候補になるなんて、今から20年前なら「悪い冗談」のような話でしたが、それが今では現実味を帯び始めているというのは驚くべきことです。