悪寒、吐き気、耳を塞ぎたくなる! 嫌韓本トンデモランキング(後編)
大反響の嫌韓本トンデモランキング。今回はいよいよベスト(?)5だが、これがもう、思想とか歴史認識とか国家観のちがいとかそういうものとは別次元の、耳を疑いたくなるような発言ばかり。しかも、第1位では嫌韓本の意外すぎる主張と本音も明らかに......。ということで、前編より何倍もくらくらする嫌韓本ヘイトスピーチの世界へ、再びごいっしょに!(こないほうがいいかも)
★第5位 テキサス親父「そんな女と"行為"をする場合は、紙袋をかぶせなきゃならないなっていうジョークを、実際に『慰安婦像』を使ってやるってんだぜ」
『テキサス親父の大正論 韓国・中国の屁理屈なんて普通のアメリカ人の俺でも崩せるぜ!』(徳間書店/2014年)
■百田センセイが"ユーモアあふれる提案"と大絶賛する性差別ギャグ■
投稿動画サイト「YouTube」で嫌韓、嫌中発言を繰り返し、それをまとめた書籍も話題のテキサス親父こと、テキサス在住のトニー・マラーノ氏。"慰安婦は大日本帝国軍の軍人の保養の手助けをしていただけ""大日本帝国軍と戦った米国に慰安婦像を建てるのはやめろ"という彼の主張に、日本のネトウヨや保守オヤジが「アメリカからも援護射撃が!」と喜んだせいか、いつしか日本でのアクセス数が増えそうな言動ばかりするようになった。
なかでも、韓国を激怒させたのが、慰安婦像の顔に袋をかぶせた写真をフェイスブックにアップしたパフォーマンス。 ワシントンの国立公文書館から、ビルマでの朝鮮人慰安婦20人に対する尋問報告書を取り寄せたところ、「彼女たちは綺麗じゃない」という一文があったことから、そんな慰安婦と"行為"をする場合は顔に紙袋をかぶせなきゃならないという"ジョーク"を思いつき、実行したのだという。従軍慰安婦問題や歴史認識論争とはなんの関係もない、ジョークにすらなっていない、ただのあからさまな性差別だが、なぜか日本の保守メディアはこれに大喝采。テキサス親父に連載をさせたり、来日させてイベントを開催したりと、完全にアイドル扱いなのだ。
「WiLL」2014年9月号(ワック・マガジンズ)でも、そのイベントで行われたテキサス親父と百田尚樹センセイとの対談を 「慰安婦像に紙袋を!大炎上対談」と題して大々的に掲載していたのだが、テキサス親父はここでも調子に乗って「大日本帝国軍は、軍の支給品として彼女たちに紙袋を支給してあげるべきでしたね」「みんなでミニチュアの慰安婦像を持って世界中で写真を撮り、徹底的に茶化す。それが韓国にとっては何よりの屈辱となるでしょう」という性差別ギャグを連発していた。
しかし、チヤホヤされて舞い上がっている当のテキサス親父はともかく、こういうただの差別オヤジをもてはやしている日本の保守メディアと保守論客のみなさんは一体何を考えているんだろう。くだんの対談相手である百田センセイも、彼の差別発言を多少はいさめるのかと思いきや、なんと「こんなに素晴らしいアメリカ人がいたのかと感動しました」「マラーノさんのユーモア溢れる提案は日本人にはなかなかない発想だと思います」とひたすら大絶賛を繰り返すのだ。百田氏のような論客が公共放送の経営委員をつとめ、テキサス親父に喝采を送るような政治勢力が道徳教育を推し進めているのだから、これから先、日本はおそらく世界に冠たる"性差別国家"になれるだろうな。うん、間違いない!
★第4位 百田尚樹「中国だったらとっくに縛り首です」
「WiLL」2014年9月号
「慰安婦像に紙袋を! 大炎上対談」(対談相手・テキサス親父ことトニー・マラーノ)
■反日をディスるあまり本音が...百田センセイは日本を中国にしたがってる?■
そのテキサス親父と対談をして大絶賛した百田尚樹センセイ。これまでも「人間のくず」「クソ貧乏長屋」などさんざん問題発言で騒がせてきたセンセイが今さら何をいってもあまり驚かないが、久しぶりに「おっ」と思ったのがこの発言だ。
「WiLL」2014年9月号のテキサス親父との対談で、百田氏は「国内の反日勢力をきちんと糾弾し、罪を認めさせ、そのうえで本丸の韓国と対峙」するとして、日教組や朝日新聞などをいつものごとく「売国奴」「国賊」「ガン」と口汚く罵っていたのだが、ついでに従軍慰安婦問題を国連人権委員会に持ち込んだ戸塚悦郎弁護士に言及。その際に「とんでもない国賊で、中国だったらとっくに縛り首です」と発言したのだ。反中であるはずの百田センセイが共産党一党独裁支配の中国の政治弾圧を持ち出す......最初はそのパラドックスに思わず笑ってしまったのだが、しかし、よく考えてみたら、これこそセンセイの本質ではないだろうか。センセイはおそらく中国共産党と同じ、「国家はひとつにまとまるべきで、国家の利益に反する人間は排除すべき」という全体主義的思想の持ち主なのである。
こういうと、百田信者のみなさんから「ただのジョークなのに、反日メディアが揚げ足取りをする」と反論されるかもしれないが、いや、本質はけっこうディテールににじみ出てくるものなのよ。
たとえば、以前、百田氏はTwitterで「すごくいいことを思いついた!もし他国が日本に攻めてきたら、9条教の信者を前線に送り出す」とトンデモなツイートして物議をかもしたことがあった。このとき、"9条教の信者は戦いたくないんだから、それって皮肉やギャグになってないんじゃないの?"と不思議な感じがしたのだが、そのツイートも皮肉やギャグでなく、9条信者は敵弾に撃たれてとっとと死んでしまえというただの異分子粛清発言だったとすれば、納得がいく。
「売国奴」「国賊」「ガン」といった作家とは思えないステロタイプなレッテル貼りをやたら多用するのも同じだろう。百田センセイは意外と本気で、中国や北朝鮮、そして戦前の日本のように、国益に反する者、国家の方針にさからう者を処刑してしまいたいと思っているんじゃないんだろうか。
★第3位 豊田有恒「(韓国は)ほぼ2000年のあいだに960回も異民族の侵入を受けている」
『どの面(ツラ)下げての韓国人』(祥伝社新書/2014年)
■出典がよくわからなくても気にしない? 嫌韓本の〈ケンチャナ〉精神!■
SF作家で、かねてから古代日本や韓国の歴史に関心がある豊田氏。最近の嫌韓ブームに合わせて批判的な論調を強めているのだが、とびだした発言がこれ。
「日本人は、言動がぶれることを嫌う性向がある。ところが韓国では言動がぶれても、お得意の〈ケンチャナ(かまわない)〉で、あっさり済んでしまうことが多い。なにしろ、ほぼ2000年のあいだに960回も異民族の侵入を受けている。これまで、確かだと思えたことが一晩でひっくりかえってしまったことなど、日常茶飯事である」
ホントに「2000年のあいだに960回も異民族の侵入も受けている」のか!? 詳しく調べようと12年に出た豊田氏の『本当は怖い韓国の歴史』(祥伝社新書)を読んでみると、「さる人が数えたところ、『三国史記』から近世にいたるまで、『高麗史』、『東国通艦』などの史書には、過去九六〇回も異民族が侵攻したことが記録されている」とあった。「さる人」っていったい誰? 一体どうやって数えたの? 疑問はつきないが、実はこれ、韓国人がお国自慢のときに話す数字のようだ。たとえば、『韓国人に教えたい日本と韓国の本当の歴史』(黄文雄/徳間書店/2013年)にも、「韓国人がよくお国自慢として口にするのが、『朝鮮は今まで1000回も侵略されたものの、全て撃退してきた』というものです」とある。つまり、豊田氏は韓国人自慢の数字を使って嫌韓的な主張を展開してしまったということだろうか。でもま、こういう厳密な指摘は、豊田氏にとっては〈ケンチャナ〉だろう、きっと。
★第2位 室谷克実「大型フェリーが沈没する確率はどれほどか。そこに乗っていたのが、有名な反日高校の生徒たちだったことは、あまりにも偶然すぎる」
『ディス・イズ・コリア 韓国船沈没考』(産経新聞出版/2014年)
■セウォル号沈没事故まで? あらゆることを「反日」と結びつける力技■
『呆韓論』がベストセラーとなった元時事通信ソウル特派員である室谷氏が旅客船セウォル号沈没事故に迫った新刊『ディス・イズ・コリア』。こちらも売れ行き好調だという。しかし、その事故へのアプローチは独特のものだ。「修学旅行生ら約450人を乗せた旅客船が韓国南西部沖で座礁し、海洋警察が緊急救助活動を行なっている」というニュースが流れたのは4月16日午前中のこと。
このニュースに「ああ、あの高校だったのか」と感想を持ったのが室谷氏。「檀園高校──その名前を見ただけで、長らく韓国ウォッチをしている人間なら、神経がピピッと来てしまう。実は反日教育で勇名を馳せる高校なのだ。(中略)檀園高校は12年8月、教職員と生徒が一緒になって『独島(日本名=竹島)守護決議大会』を催し、それが韓国メディアで紹介されたことがある(「朝鮮日報」12年8月28日)。それで、私は『えっ、あの高校が......』と思ったのだ」という。
その後、旅客船はなすすべなく沈没。乗員・乗客293人超が死亡するという大惨事になったわけだが、室谷氏の姿勢はまったくぶれない。 「この公立高校でどんな教育が行なわれているのか、窺い知ることができる。独島に関する国策映画を見せ、教職員が生徒と一緒になって......」などと、いかにこの高校が有名な反日高校だったかを解説し続けるのだ。
いったい、被害にあった修学旅行生の高校が反日だったからって、どういう関係が......と思うのだが、その答えが冒頭のくだりらしい。
「大型フェリーが沈没する確率はどれほどか。そこに乗っていたのが、有名な反日高校の生徒たちだったことは、あまりにも偶然すぎる。ただ、逆に言えば、あまりにも偶然すぎるケースに、有名な反日高校が出てきたことは、それはそれで、韓国の一断面といえるだろう」
まあ、婉曲的な表現ではあるが、反日だから事故が起きたんじゃないの?と言いたいらしいのだ。13年の韓国の有力紙「中央日報」が広島・長崎への原爆投下を「神の懲罰」とする記事を掲載し問題になったが、もしかして室谷氏は"沈没事故は反日高校に対する『神の懲罰』"と言いたかったのだろうか。
その後も、「檀園高校がある安山市は、工場地帯が広がり、低所得者が多い地域なのだ」「韓国日報(14年5月29日)によると『事故に遭った檀園高校の生徒325人中50人余りが片親家庭や祖父母が養育する家庭』であり貧しい家の子どもたちだったことを紹介している」など、とにかく檀園高校のマイナス情報を書き続ける室谷氏。いくら韓国が嫌いでも、不幸な事故の直後にこんな攻撃をするのはあんまりだろう。こんな言論活動を続けていると、韓国から「日本軍兵士は血も涙もなかった。残酷なのが日本人の国民性」とかいわれても反論できなくなる気がするのだが......。
★第1位 竹田恒泰「日本人はもっと韓国に無関心にならなくてはいけません」
『笑えるほどたちが悪い韓国の話』(ビジネス社/2014年)
■まさかの「韓国に関心をもつな」論。嫌韓本に向き合った時間を返せ!■
『笑えるほどたちが悪い韓国の話』で、えんえんと嫌韓論をぶち上げる"ネトウヨのアイドル"竹田恒泰氏。当然、じゃあ、どうすればいいのか?という話になるのだが、竹田氏は「おわりに 結局、韓国とはどうすればよいか」で、こう発言するのだ。
「日本人はもっと韓国に無関心にならなくてはいけません(中略)いま韓国に対する日本人の関心は高まる一方です。韓国の大統領や政府が日本を批判すると、日本のメディアは大きくこれを報じます。それでは相手の思う壺なのです。韓国がどんなに日本バッシングをしても、日本はそれらを軽く受け流してしまえば良いのです」
ええっ、韓国に関心向けるなって、じゃあ、韓国のメディア報道に過剰に反応してきた250ページは何だったの?
だが、この「韓国に無関心になれ」と主張をしている嫌韓論者は、実は竹田氏だけではなかった。「彼らの『反日活動』については相手にしない」(三橋貴明)という『愚韓新論』(飛鳥新社/2014年)、「中国と韓国という落ちこぼれ兄弟、どうにもならない異質な二つの国をそれほど真剣に相手にする必要はなく、距離を置いたほうがいいと思います」(石平)、「日本は、中国、韓国と距離を置いたほうがうまくいくと思うんです」(呉善花)という『もう、この国は捨て置け!─韓国の狂気と異質さ』(WAC/2014年)、「再び、韓国叩きで溜飲を下げていれば良いとする風潮にモノ申したい。そのような風潮は愚かではないのか。はっきり言えば、朝鮮半島のことなどどうでも良い」(倉山満)という(『真実の朝鮮史[1868-2014]』(ビジネス社/2014年)などなど。多くの本で同じような「韓国ほっとけば」論が展開されているのだ。
さっきまでの韓国への熱い感情はいずこへ!? ていうか、だったら、いったい彼らは何のためにわざわざ嫌韓本を書いたのか。その答えも、竹田氏の『笑えるほどたちが悪い韓国の話』に載っていた。
「以前は中国に関するネタが盛り上がる傾向がありましたが、最近は韓国がカミングアウトしてきた結果でしょうか、韓国ネタが一番盛り上がるようになりました。そこで、『竹田恒泰チャンネル』で盛り上がった韓国ネタをまとめてみました」
嫌韓本が売れるから。ただそれだけということらしい。まさかのカミングアウトだが、でもまあ、そういうことなのだろう。耳をふさぎたくなるような差別的発言や「国賊」「売国奴」といった勇ましい言葉が満載の嫌韓本も、多くの執筆者や出版社にとっては結局のところ、「ウケるネタ」「売れるコンテンツ」でしかない。「やっぱ今はネトウヨアイドル、竹田さんを出さないと!」「こういうときは室谷センセイにガツンとディスっていただいて」「慰安婦の顔に紙袋? ウケる〜、それいこいこ」。きっと編集部ではそんな台詞が飛び交っているはずだ。
でも、ネタだからといって、侮ってはいけない。出版社や執筆者は商売でも、読者は確実に本気になっている。嫌韓本によって自らのグロテスクな差別感情を正当化し、中韓との戦争を本気で求め始めている。ネタやエンタテインメントがコントロールのきかない熱狂を生み出す可能性だって十分あり得るのだ。そのことに気づかずノーテンキに差別発言を垂れ流している嫌韓本の執筆者や出版社こそ、「戦後民主主義ボケ」「平和ボケ」の典型だと思うのだが......。
(エンジョウトオル)