もはやヘイトスピーチ? 嫌韓本トンデモ発言ランキング( 前編)
ベストセラー連発で、大ブームになっている嫌韓本。これだけ売れているからには何か理由があるのだろうと思って、夏休みの前半を費やして、一気に読んでみた。その数、単行本、新書、月刊誌あわせて37冊。
すると、そこから見えてきたのはトンデモない韓国の姿ではなく、嫌韓本のトンデモぶりだった。差別、決めつけ、妄想、陰謀論......す、すごすぎる。これって、ヘイトスピーチと変わりないんじゃ......。いや、それ以上の破壊力かもしれない。
というわけで、今日から2回にわたって、嫌韓本トンデモ発言ベスト(?)10を紹介することにした。さあ、あなたもいっしょに、くらくらするような嫌韓本の世界へ!
★第10位 竹田恒泰「私は李明博(り あきひろ)と呼びますが」
『笑えるほどたちが悪い韓国の話』(ビジネス社/2014年)
■明治天皇の玄孫が放つ"創氏改名"風味のオヤジギャグ■
竹田氏といえば、旧宮家の家柄ながら、その個性的なキャラクターと日本礼賛と中韓攻撃発言で"ネトウヨのアイドル"となった人物。 その竹田氏が李明博(イミョンバク)前大統領を「りあきひろ」と呼ぶのは、「実は彼、歴代大統領の中ではもっとも親日的といわれた人物でした。元々が大阪出身の在日二世で、月山明博という日本名さえ持っている。もちろん日本語も流暢で、バリバリの関西弁を話します。口癖は『なんでやねん』ですから(←これはウソ)。心底では日本大好きの、まあ、害のない奴だったのです」(p.102)。
しかし身内の汚職問題などスキャンダルなどを抱え、支持率の急降下を回復するために竹島上陸に打って出た前大統領を「明博(あきひろ)のアホ」と竹田氏はからかう。
この本自体が無料動画「ニコニコ動画 竹田恒泰チャンネル」で放送された内容を一冊にまとめたもので、竹田氏も面白おかしく話しているつもりなのだろうが、「在日」の日本名を使って笑いにするあたり、居酒屋で差別トークを話している酔っ払いのサラリーマンとほとんど変わりはない。いや、待てよ。朝鮮人に日本式の名前を名乗らせる創氏改名は1940年に皇民化政策の一環として行なわれたもの。もともと旧宮家の皇籍復帰にやたら積極的な発言をしているし、もしかして、この人、自分があの玉座に座って皇国を復活させることを狙ってるんじゃ......。
★第9位 室谷克実「沖縄の気質は、韓国に似ている」
『韓国人がタブーにする韓国経済の真実』(共著者・三橋貴明/PHP研究所/2011年)
■沖縄=朝鮮同質論まで! 嫌韓作家の次のテーマは「嫌沖」か!■
『呆韓論』(産経新聞出版)が発売2か月で20万部を超えるベストセラーとなった元時事通信ソウル特派員である室谷克実氏。しかし、室谷氏のヘイトスピーチ発言は、韓国だけでなく、沖縄にまで及んでいる。室谷氏は異なる建国神話を持ち、方言もきつい済州島への韓国人の差別意識を論じるなかで、対談相手の三橋氏からの「日本でいうと、沖縄みたいなものですかね。日本の場合、沖縄を露骨に差別するような考えはありませんが」という問いに対し、こう答えたのだ。
「むしろ、日本政府は沖縄を優遇しすぎている。沖縄の気質は、韓国に似ていると思います。彼らのいっていることは、つまるところ『本土はカネをよこせ』ですから。アメリカ国務省日本部長の観察として伝えられた内容は正しいと思います」
「アメリカ国務省日本部長の観察」とは2011年のケヴィン・メア氏の「沖縄はごまかしとゆすりの名人」発言のことだ。沖縄の人たちが聞いたら怒りに震えそうな発言ではないか。
この室谷発言に対し三橋氏はさすがにマズいと思ったのか。「沖縄の場合、左翼運動しているのは、みんな本土から行った連中ですよ。そこは割り引く必要があると思います」と助け舟を出そうとするが、室谷氏の勢いは止まらない。
「沖縄については二十年ほど前に調べたことがありますが、主体思想研究会など北朝鮮系の組織が異様に多い」
「沖縄には『門中(もんちゅう)』と呼ばれる血縁集団があり、祖先を同じくする人の繋がりが強い。門中は朝鮮半島の本貫(ほんかん)集団と同じです。儒教的な同族意識という点で、沖縄と韓国はよく似ています。若年層の失業率が異様に高い点でも」
このままいくと"嫌韓"本に続いて"嫌沖"本も出しかねない!?
★第8位 呉善花「韓国人は、(中略)目に見えない所では平然と誤魔化しをやって当たり前だと思っています」
『日本人は中韓との「絶交の覚悟」を持ちなさい』(李白社/2014年)
■保守オヤジを喜ばす韓国出身女性論客の日本ユートピア論■
嫌韓本に共通しているのは、「世界中で韓国だけは日本と同じ文化・慣習、ルールでなくてはいけない」という思想。たとえば、欧米やインド、南米であればお国柄として許されるようなことでも、隣国である韓国だけは日本と同じでなければ許されないのだ。
そのわかりやすい例が呉善花氏の発言だろう。呉氏は済州島出身ながら、日本に留学後、親日派として韓国批判を展開するようになった女性論客。その後、韓国から入国拒否にあうなどして、韓国批判をますますエスカレートさせている。
その呉氏は先の発言に続き「日本人は誰も見ていないからちょっと誤魔化してやろうという根性はとても醜いものだ。みっともないものだといいます。(中略)しかし、韓国には、人を騙すのは普通にあることで、騙されたほうが悪いとすらいいます」と日本との比較で韓国をけちょんけちょんにけなしている。
でも、たとえば、こういう正直さについて語られる時も、日本と南米と比べるような場合は逆に「日本人は南米に比べてマリーシア(ずる賢さ)が足りない」などといわれたりするのだ。それがなぜ、韓国の場合は日本に比べて劣っているという比較のされ方しかしないのだろう。
ていうか、そもそも国民性ってこんなに単純なものなのか。もし、彼女のいうことが正しければ、日本には政治家の汚職も企業の不祥事隠しも詐欺もほとんどないということになる。
もっとも、こうした日本"ユートピア"論は恵まれた環境に生まれ育った保守層にとっては、たまらなくうれしいものだろう。呉氏はある意味、保守オヤジたちのツボをおさえているといっていいかもしれない。
★第7位 倉山満「大震災で家を焼かれたときに敵国のスパイの手先が暴れ回るとして、冷静になれと言うほうがおかしい」
『嘘だらけの日韓近現代史』(扶桑社新書/2013年)
■関東大震災の朝鮮人大虐殺も「ソ連の手先」と正当化!■
日本近代史に詳しいとされ保守系ネット動画でおなじみの憲政史研究者の倉山氏。この『嘘だらけの日韓近現代史』は『日米』『日中』に続くシリーズで、この本もベストセラーにランクインし、8万部超になった。
歴史上の通説の"嘘"を鋭く指摘する舌鋒にわが意を得たりと膝をうつ保守系読者も多いようだが、今回は、関東大震災時の『朝鮮人大虐殺』にも果敢に切り込んでいる。通説では、震災後、時の警視庁官房主事(後に読売新聞社主となる)正力松太郎が各新聞の記者に、「井戸に毒を」というデマを流布したことがきっかけ。これを鵜呑みにした「不逞鮮人」報道が大きく広がり、「朝鮮人大虐殺」につながったとされている。
しかし、最近の嫌韓ブームに乗ってか、どうも保守派の間では別のストーリーが主流になりつつあるようだ。"当時、「不逞鮮人」の大規模な暴動があったのは間違いなく、暴動を鎮圧する動きが虐殺にエスカレートしたのではないか"といったストーリーだ。つまり、「日本人だけが悪いわけではない」という立場だ。
この新説にさらに拍車をかけるのが、倉山氏の「コミンテルンに指嗾された『不逞鮮人』」説だ。なんでも、共産主義の国際団体であるコミンテルンが日本に共産主義革命を起こすべく、大震災に乗じて、「不逞鮮人」たちに暴動を起こすように働きかけた。日本人がその勢力と果敢に戦った結果が「朝鮮人大虐殺」だったというのだ。
もしかしたら倉山氏は「コミンテルン」陰謀論者なのだろうか!? そういえば、『嘘だらけの日米近現代史』でも日米開戦のきっかけは「ソ連は世界中にスパイを放ち、特に日本の近衛内閣とアメリカのF・ルーズベルト政権の中枢を固め、日米両国を戦争に向かわせて共倒れに持ち込んだ」などとすべてはコミンテルンのせいとばかりの「コミンテルン」陰謀論を展開していた。
倉山氏の本はジャーナリズムというより、パラレルワールドのファンタジーとして読んだ方がいいのかもしれない。
★第6位 宮脇淳子
「一応このウィキぺディアの『金日成』も使って話していこうと思います」
『真実の朝鮮史[1868-2014]』(共著者・倉山満/ビジネス社/2014年)
■「大陸の歴史」専門家は「ウィキペディア」信奉者?■
ご本人曰く「モンゴル史を含めた大陸の歴史の専門家」である宮脇淳子氏と保守系コミンテルン史観でおなじみの憲政史研究者の倉山氏の対談集。国士舘大学21世紀アジア学部の非常勤講師仲間で「毎週、非常勤講師控室で四方山話をするのが楽しみ」だった二人が、『真実の中国史』『真実の満州史』に続いて、朝鮮半島版を出すにいたったシリーズだ。「シナ大陸からの視点と日本列島からの視点で、朝鮮半島の歴史を語る」という試みだったが、戦後の話題になると韓国よりも「北の方が問題です」と、北朝鮮の話題に乗り出す。
そして、「和田春樹のような左の人でもやっぱり日本人なので、材料やら史料やらを丁寧に当たって、あるところまでは本当のことが書いてある。結構洗いざらい書いてあります」と読むべき史料がたくさんあるといっていたのに、次の瞬間、こんなセリフをはくのだ。
「ほかにまとまった資料もないので、一応このウィキぺディアの『金日成』も使って話していこうと思います」
え? 意味がわからないんですけど? 北朝鮮に関する研究というのは、たくさんの人たちがやっていて、読むべき史料がいっぱいあるんじゃないの? なのになぜ「ウィキペディア」?
ウィキぺディアとは周知のように、ユーザーの手によって作成・推敲しているフリー百科事典サイト。口さがない人に言わせれば「書式のある2ちゃんねる」ともいわれる事実関係に疑問符のつくサイトではないか。研究者はもちろん、大学生レベルでもウィキからの論文への引用はご法度だ。
しかし、この対談では、「金日成は複数いて、もともとはソ連軍の将校で、朝鮮戦争も金日成の指示だった」と、「ウィキぺディア」に書いてあることがまるで正しいかのように引用しながら議論が進んでいく。 宮脇先生の授業では、学生がウィキを引きうつして論文を書いても怒られたりしないんだろうか。
ということで、今回はここまで。嫌韓本トンデモランキング続きの5位〜1位は、明日日曜日に配信予定。もっとトンデモがいっぱいなので、お楽しみに〜。
(エンジョウトオル)