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監視社会 個人情報は守られるのか
(2016年10月16日午前7時30分)
【論説】「監視社会」を助長するかのような政治の動きが顕著になっている。5月に成立した刑事司法改革関連の一つで盗聴法とも呼ばれる「通信傍受法」の対象に新たに9犯罪が追加され、12月1日実施の政令が先ごろ閣議決定された。警察は振り込め詐欺など特殊詐欺捜査の切り札になると乗り気だが、その先に市民の日常会話まで拾う「会話傍受」が視野に入る。
さらに傍受拡大の陰には悪法と名高い「共謀罪」が見え隠れする。3回の廃案でも成立に躍起の政府は「テロ等組織犯罪準備罪」と名を変え復活を狙う。
昨今、防犯カメラが増殖し映った人物を瞬時に照合する「顔認証」システムの導入もスタート。違法性が問われる衛星利用のGPS捜査も警察任せで密行する。全方位からの「監視」の網が着実に強化されつつある。
■9犯罪が対象に追加■
警察が電話、メールの内容をチェックする通信傍受は、憲法で保障される「通信の秘密」との関係から限定的に行われ、事件数にして現在年10件前後(警察庁)という。薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4種の犯罪捜査に限られ、傍受した内容は裁判の証拠となる。
改正により組織的な詐欺や窃盗のほか障害、放火、児童ポルノ製造・提供など9犯罪が追加された。傍受の際の通信事業者の立ち会いもなくした。傍受データを暗号化して警察施設に送り、使い勝手を良くした。
通信傍受の本格運用には法制審議会部会で「第三者の立ち会いがなく乱用の恐れがある」と慎重論が根強かった。最終的に特殊詐欺による高齢者の深刻な被害実態が議論を方向付けた。
だが、通信傍受は警察の裁量による部分が大きい。これまでのように情報公開が不十分では解釈や運用の仕方に疑念が生じ、チェックや検証をどうするのか国民は不安である。適正な運用を求めたい。
■テロに隠れる共謀罪■
通信傍受拡大と連動して「共謀罪」が現実味を帯びる。犯罪を実行する話し合い(合意)段階で処罰できるようになるが、実証が難しく徹底した監視と情報収集が欠かせない。通信傍受が一層重要な捜査手法として活用される理由である。
共謀罪法案は国会で激しい論戦が繰り広げられ、世論の強い反発で廃案を繰り返してきた経緯がある。ところが昨今、イスラム過激派などによるテロが頻発、海外で日本人が被害に遭うケースも出てテロ防止へ国民の意識も変わりつつある。世界が立ち向かう強い姿勢をみせ、国連の「国際組織犯罪防止条約」には180カ国が締結。2020年東京五輪を控える日本もテロ対策重視を前面に掲げた。
「最も世論の反発が避けられる機会を探っていた」と政府関係者が言うように、国民受けの悪い共謀罪は「テロ等組織犯罪準備罪」に姿を変え、来年の通常国会に登場する。
■市民の会話も丸裸に■
テロ準備罪は組織的犯罪集団に限定するほか、犯罪実行の準備行為がないと処罰されないが、犯罪集団も準備行為も定義がはっきりしておらず、共謀罪であることに変わりない。
警察は特殊詐欺の拠点などに送信機を仕掛け会話を盗聴する「会話傍受」も検討している。捜査上なら市民の日常会話も丸裸にされかねず、プライバシー侵害の懸念から反発は必至だ。
こうした監視強化の流れに、メディア法が専門の田島泰彦・上智大教授は「抑制的だった監視カメラや盗聴が捜査で当たり前に活用されるようになった。テロが相次いでおり、しょうがないと市民の大きな反対も起きなくなっている」と、監視社会の危うい構造に警鐘を鳴らす。
日常化したインターネットもわれわれの生活をのぞく格好の装置になり得る。いつどこにいても知らず知らず「見られている」監視社会とは何とも嫌な響きである。(大塚 潤三)
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