国際情報誌・SAPIOの人気連載『日本の芸能を旅する』第七回はサーカス編。ノンフィクション作家・上原善広氏が木下大サーカスの木下唯志社長のもとを訪ねた。
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サーカスを見るのは小学生以来、実に三〇年振りだった。
四〇分ほどのショーを見ると、ホワイト・ライオンも出る猛獣ショーから綱渡り、空中ブランコなど二〇ほどの演目が次から次へと披露される。場面転換の際の暗転も非常に早く、数十秒で次のショーが始まる。三〇年前は暗転の時間が長いため少し退屈した思い出があったので、このスピードの変化には驚いた。
木下唯志社長も「常に進化してますから」と言う。
「感動を持続させるため、プログラム間の暗転は一秒でも早くできるよう努力しています。サーカスというのは子供から大人まで見られる『ファミリー・エンターテイメント』ですからね」
確かにこのスピードだと、幼児でも退屈を感じさせないだろう。
「演出は、USJなども手掛けているジョン・フォックスにお願いして変化をつけました。昔のサーカスとは違うでしょう」
私は失礼ながらサーカスについて「子供向けの時代遅れのショー」というイメージをもっていたのだが、それは完全に間違っていた。これはかなり本格的なショーであり、確実に一昔前のサーカスとは一線を画している。
日本のサーカス団も、これほど大規模なものでは木下サーカス一つとなってしまった。最盛期には二〇団体もあったサーカス団の中で、木下サーカスだけがなぜ生き残ってきたのかは、その洗練されたショーを見ただけで納得できる。
「他団体が閉業に追い込まれたのは、改革が足りなかったからでしょう。毎公演、改革をしていくくらいでなければ簡単に潰れます」
設備も充実している。仮設テント横に付いている洋式の水洗トイレもきれいだ。とても仮設トイレには見えない。
「テントは仮設といっても、一張り四億する頑丈なものです。杭も普通は一二〇本でいいのですが、うちは六〇〇本使っています。ワイヤーもダブル、トリプルで張ってます。でも設営、撤収も早いですよ。水洗トイレは一か所、一四万円かけてます。冷房も完備して、デンソーやダイキンを入れています。舞台床も昔はおがくずを敷いていたのですが、今はスポンジにして出演者たちの足を痛めないように工夫しています」
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