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【コラム】

筆洗

 科学とは「不思議を殺すものでなくて、不思議を生み出すものである」という名言を残したのは、夏目漱石の弟子で物理学者の寺田寅彦だ▼たとえば、かつては「すべてのものは原子からできている」と教わったのに、科学の進展で、私たちが知る原子でつくられている物質は宇宙のわずか4%にすぎず、残りは謎の物質だと分かった▼常識が覆され、新たな不思議が見つかる。そのおかげで私たちはより深く、違った角度から考えられるようになる。それが科学の醍醐味(だいごみ)だろうが、どうもわが国の政府は「不思議を生み出す」科学に冷淡なようだ▼きょう、ノーベル賞の授賞式典に臨む大隅良典さんは「謎が解かれた時、新たな謎が生まれるのが科学」と説き、「科学が役に立つというのが、数年後に企業化できることと、同義語になっている」と憂いている。研究費が削られ、拙速に成果が求められる現状では、科学立国の礎(いしずえ)が危ういとの警鐘だ▼偉大な政治家にして科学者でもあったベンジャミン・フランクリンには、こんな逸話が伝わる。自然科学の新たな成果に接した人が、「これは何の役に立つのだ?」と聞くと、彼は聞き返した。「では、生まれたばかりの赤ん坊は、何の役に立つというのです?」▼大人には計り知れぬ可能性を秘めた「赤ん坊」に「何の役に立つか?」を問う。そういう社会では、未来は育めまい。

 

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