相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件を検証してきた厚生労働省の有識者会議が、再発防止のための提言をまとめた。

 当時の衝撃を思い起こし、この課題に社会全体でとり組む姿勢を確かなものにしたい。

 容疑者は事件の約5カ月前に措置入院していた。提言は、退院後の対応が不十分だったとの反省にたち、こうした入院患者すべてについて、病院を出た後も引き続き支援する計画をつくることを求めた。監視ではなく、適切な治療や福祉を提供する措置だと強調している。

 容疑者はいま精神鑑定をうけている段階で、事件と病気の関係ははっきりしていない。精神医療の現場などには急ぎ足の議論への懸念もあった。提言はそうした声も意識しながら、今回浮かびあがった課題や問題点を改めようとしており、配慮と苦心の跡がうかがえる。

 たとえば、容疑者が殺害をほのめかす言動をしていたことから、「警察が早くから関与していれば」との声がある。これに対し提言は、関係機関の協力の重要性にふれつつ、身柄の拘束などは「(患者の)人権保護の観点から極めて慎重でなければならない」としている。重く、心にとめるべき指摘である。

 支援を着実に進めるための具体的な制度づくりは、厚労省内の別の検討会が引き継ぐが、難しい問題が待ち受ける。

 昨年度、新たに措置入院になった患者は全国で約7千人いる。一人一人にあった支援計画が大切だが、策定に手間取ると入院期間がその分延びてしまう。退院後の支援も、長期に及ぶと患者を過度にしばりかねず、支える側の負担も増す。

 検討会には、実効性があり、均衡のとれた対策を求めたい。

 さらに、提言の実現には、保健所の保健師はじめ、医療・福祉現場の態勢の整備が欠かせない。国は予算面などでしっかり後押ししてほしい。

 容疑者は日ごろ障害者に接していた施設の元職員だった。その仕事ぶりや施設の対応など不明の点も多い。刑事手続きの進行をにらみながら解明・共有していく必要があるが、一般に、こうした職場の環境のきびしさは広く知られている。

 提言が、職員がやりがいをもって働けるよう、研修の充実や待遇改善にとり組むべきだと注文しているのも大事な点だ。

 必要とする人に医療や支援が届き、孤立を生み出さない。障害の有無にかかわらず、みんなが地域でともに暮らせる。そんな社会に向けた歩みを、着実に進めなければならない。