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1.俺はレキシントンを愛しているー1ー
ヴィバ、レキシントン!
早朝、誰もが起きたがらない魔の時間帯。
特にこの初冬など窓を開けると寒風が容赦なく吹き込んでくる。
鎮守府ともなると海辺に設立されているので尚更だ。
取り敢えず、鎮守府で絶賛提督をやっている俺は布団に包まっている。
たとえ、誰が起こしに来ようと断固として起きまいと決め込んでいる。
「司令、朝ですよ」
ガチャリとドアが開けられると鈴の音、いやそんなものとは比較にならないほどの優しい声が俺の鼓膜を震わす。
「.......」
うっかり勢いで起きそうになるが、ここは鋼の精神を持って布団に包まる。
心の葛藤など露知らず、声の主はゆったりとした足取りで俺の元に歩み寄ってくる。
「早く起きないといたずらしちゃいますよ?」
なにそれ俺絶対起きない!心の中でそう決心する。
やがて俺の前で立ち止まると、ゆっくりと声の主はベッドに腰掛けた。
近い、非常に近い。少し距離はあるのだが、相手からは女の子特有の脳髄を麻痺させるほどの甘やかな香りが漂い、俺の鼻腔をくすぐった。
一方の彼女は、俺の悶々とした想いを見事に無視し、いたずらの内容を必死に考えている。
眉間に僅かにしわを作り考えあぐねる姿はどこまでも愛くるしかった。
「司令が起きないのが悪いんですよ」
どうやら俺へのいたずらを決めたらしく、彼女は俺の顔元に自分の顔を近づけてきた。
.......What?
目を瞑ってるから気配だけだが、それでも十分に理解できる。
彼女は、自分の体を支えるために俺の顔の左右に手をつき、どんどん顔を近づけてきている。
ちょ、タンマ!待ってください!
この子は一体朝からナニをしようとしているのか?出来れば続けてくださーーーそうじゃない!
ここはあくまで軍事組織。
あまりに無節操だと流石に困る。
「本当にしちゃいますよ?」
吐息がかかる距離まで近づいているため、彼女の息遣いまで克明に伝わってくる。
くそっ!本当はしてほしいが俺は提督としての責務を全うするんだ!
諦めをつけ、俺は彼女に1発言ってやろうと飛び起きた。
「こ、コラーーーへぶしッッ⁉︎」
俺は、彼女の構えていた《《デコピン》》に九三式酸素魚雷並みの速度で激突した。
「きゃッッ!」
驚く貴女も可愛らしいですよ。まる。
****
「何をやっているんですか....」
やれやれといった様子でため息を吐く彼女。
今更だが、紹介をしておこう。
彼女の名前は『レキシントン』。
太平洋戦争を戦った米国海軍のレキシントン級航空母艦のネームシップだ。
そして、現在は俺の鎮守府に所属する主力空母である。
瞳の色は海のように青々としたブルー。
髪は薄いクリーム色で腰まできているストレート。
顔立ちは....もうそれはそれは美少女、いや?美女か?それとスタイルが無茶苦茶良い。(艦隊所属アーガスさん調べ)
「えっと...起きたくないなぁと思っていたら、レックスさんがいたずらしてくれるとか言い出したんで、もっと起きたくなくなりました」
因みに、レキシントンの愛称は「レディレックス」、それを更に縮めてレックスと呼んでいる。
「はぁ、何故私がいたずらしようとすると突撃してくるんですか?」
1番痛い質問をしてきたレックス。
言うべきなのか?俺がデコピンをキスと勘違いしたとなんて。
否、言えない。
かけがえのない何かを絶対に失う自信がある。
基本は優しいレックスだが、怒ると怒る。
頭が上がらないくらいには怒る。
言いたくないなぁ。
でも、言うしかないか。
「その...デコピンをキスと勘違いしました...」
一体どんなお叱りが飛んでくるのか?いや、優しいレックスを怒らせた俺も悪いんですけどね。
さて、覚悟を決めるか。
俺は鉄拳制裁を覚悟し、目を瞑る。
.......
.......
あれ?何もしてこない?俺は顔を覆っていた手をどかし、そっとレックスの表情を伺う。
「.......」
.......え?ありのままの真実を伝えると、可愛らしく赤面したレックスがあたふたしてました。
「ど、どした?」
「キ、キスなんて私はしませんよ!か、勘違いしないでください!」
顔を真っ赤にし、焦りを見せるレックス。
そうか、彼女はこの手の話に弱いのか。
「わ、悪い!」
お互いに赤面し、硬直する。
すごくむず痒い。
視線を合わせると、恥ずかしそうにキョロキョロするレックスは、それはそれは可愛らしい。
今日も良い1日が始まりそうだ。
俺は確信するのだった。
ゲーム内での三笠の人は俺のことです。
あのいつも演習でボコされているのは俺です。
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