盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時の2004年6月、野党ハンナラ党(与党セヌリ党の前身)のパク・チャンダル議員に対する逮捕同意案が否決されると、国会は一時騒然となった。与党のヨルリン・ウリ党が過半数の議席を確保していたため、この案件は当然可決されると予想されていたが、実際は反対の結果が出てしまったからだ。ヨルリン・ウリ党は改革を掲げていたにもかかわらず30票以上の造反者が出たため、その影響は非常に大きかった。興奮した一般党員は議員全員に賛成か反対かを問う質問書を送付し、裏切り者を探し出そうとした。造反議員の一部は驚き、中には自白した者もいた。
2002年に張裳(チャン・サン)元梨花女子大学学長に対する国務総理の任命同意案が否決された時も、各党は造反者を必死に探し出そうとした。その後、互いに異なった見解を出して他党を攻撃した。1999年4月に当時ハンナラ党の徐相穆(ソ・サンモク)議員に対する逮捕同意案が否決された時も、政界では出所不明の「造反者リスト」が広まった。
国会法の規定によると、法案の採決は記名投票、人事に関する案件は無記名投票と定められている。国務総理や大法官(最高裁判所裁判官に相当)の任命同意案、逮捕同意案、弾劾などの採決も無記名だ。人事に関する採決だけが無記名とされている理由は、議員自ら深く考えて自分の意志で投票するという趣旨と、議員をその投票行動による非難・攻撃から守るという意味合いがある。仮に逮捕同意案に賛成あるいは反対した議員のリストが公表されてしまえば、その当事者との関係が悪化し、また世論の攻撃を受けることもあるだろう。政府人事や懲戒委員会の採決結果が非公開とされ、情報公開対象から除外されているのも同じ趣旨だ。
朴槿恵(パク・クンヘ)大統領に対する弾劾訴追案の採決を前に、市民団体「賛成認証ショット(スマートフォンで写真を撮ること)」の要求に与野党の一部議員が呼応している。例えば野党「共に民主党」の李錫玄(イ・ソクヒョン)議員は「認証ショットを公表する」とすでに明言しており、弾劾の鍵を握る与党セヌリ党非主流派の非親朴グループからも「認証ショットを公表すべきだ」という声が出ているという。国会議員選挙や大統領選挙における投票用紙の認証ショットは違法だが、弾劾投票の認証ショットについては禁止や処罰の規定がない。要するに自らを保護する仕組みを取り去るということだが、もし弾劾が否決された場合、与野党が互いに相手の責任として非難する状況を事前に防止する意味合いもあるだろう。
政界でも「挙手で採決する広場民主主義への後退だ」という批判的な声と、「国民の知る権利という次元から公表すべきだ」とする双方の意見がある。ちなみに野党は認証ショットについては各議員に任せることにしたが、一方で投票権の侵害になる恐れがあることから、認証ショットが現行法の趣旨に合わないことだけは確かだ。これに対して「弾劾は国会議員にとって最も重大な決定」との論理を前面に出し「有権者は各議員の考えを当然知るべきだ」という反論も考えられるだろう。弾劾に関する法を見直すことも場合によっては必要かもしれない。ちなみに米国では大統領の弾劾は記名投票で行われる。