国民に選ばれた朴槿恵(パククネ)大統領が、民意によってその地位を追われようとしている。

 韓国国会はきのう、朴氏の弾劾(だんがい)訴追案を賛成多数で可決した。朴氏の職務は停止し、黄教安(ファンギョアン)首相が職務を代行する。

 罷免(ひめん)するかどうかは今後、最長180日間をかけて憲法裁判所が審理する。

 国政を混乱に陥れる原因をつくったのは朴氏自身である。同時に、事態を収拾できない与野党の責任も重い。朴氏と各党は、一日も早く国政を立て直す努力を尽くしてほしい。

 ソウルの幹線道路は毎週末、大統領の即時辞任を求める民衆で埋まる。世論調査では弾劾への支持が8割に達した。

 そのため、「親朴系」と呼ばれる与党議員も相当数が賛成に回り、大差で可決された。

 朴氏はこれまで、旧知の友人と共謀して財閥系企業に資金を出させた疑惑などについて説明を避けてきた。検察当局の事情聴取要請にも応じなかった。

 自らの疑惑に対し、真摯(しんし)に向き合おうとする誠実さが欠けていたと言わざるを得ない。

 一方、進退をめぐっては与党代表に対し、4月末に辞任する意思を伝えると同時に、弾劾案が可決されれば憲法裁の判断を待つ考えも示したという。

 野党側は、もし憲法裁が棄却した場合、辞任表明も取り消すのではないか、といぶかる。

 朴氏はまず、政府と独立して設けられた特別検察官に対し、ありのままを証言すべきだ。さらに自身の進退について、国民に明確に語らねばならない。

 韓国は今後、異例の国家運営を迫られるが、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への対処など政治の空白は許されない。

 国政トップとなる黄首相は、過渡期の安定を最優先し、公平な行政を進める管理内閣に徹してほしい。

 憲法裁の審理の行方は見通せないが、その結果にかかわらず、朴氏の任期前の退任は避けられない。審理と並行して国会も、朴氏の辞任と大統領選への道筋を話し合い、国政の正常化を急ぐべきだろう。

 与野党はすでに大統領選に向けた動きを始めているが、見失ってならないのは、国民の怒りのありようである。

 多くの国民を立ち上がらせたのは、朴氏の不正疑惑だけではない。その土壌である韓国の古い政治体質や、不公平な社会構造にこそ問題の根がある。

 この混乱から次期政権づくりへ向かう試練の過程を、真剣な政治改革の機会としなければ、国民は納得しないだろう。