東京電力福島第一原発の事故に伴う損害賠償や廃炉、除染などに21・5兆円かかる――。

 経済産業省が新たな見通しを公表した。3年前の想定から2倍になり、さらに増える恐れもあるという。

 原発がひとたび事故を起こした時、いかに大きな惨禍をもたらすか、改めて痛感する。電気料金や税金による国民負担がどこまで膨らむのか、不安を禁じ得ない。

 従来の負担の枠組みが行き詰まったのを受けて、経産省は修正案を示した。実質国有化している東電にいっそうの経営努力を求めつつ、原発を持たない新電力とその契約者にまで負担を強いるという内容だ。理屈の通らないつぎはぎが目立つ。

 事故の償いや処理は、着実に進めなければならない。そのためにも、国民の理解が欠かせない。関係者の責任を明確にしつつ、負担をできるだけ抑えることが大切だが、経産省案には多くの問題がある。他に方法がないのか、検討を尽くさなければならない。

 今回の試算で、費用が特に膨らんだのが廃炉だ。従来想定の4倍に当たる8兆円になった。しかも、溶け落ちた核燃料の状態はまだ分かっておらず、この額に収まる保証はない。

 廃炉費に関して、経産省は東電に他社との事業再編を求め、収益力を高めて捻出させる青写真を描く。事故を起こした東電が努力を尽くすのは当然だが、再編の相手先を見つけるのは容易ではなく、「絵に描いた餅」の危うさをはらむ。

 経産省はまた、新電力が大手の送電線を使う際に支払う託送料金に賠償・廃炉費の一部を付け替え、負担させる方針だ。しかし、原発固有の費用を託送料金に混ぜ込むのは原発支援策にほかならない。

 国が進める電力自由化は、事業者同士の公正な競争を通じて電気料金を安くすることが狙いだが、こうしたやり方は競争環境をゆがめる。託送料金は電気の利用者から見えにくいため、費用の膨張に歯止めがかからなくなる恐れもある。

 有識者会議を舞台にした今回の検討は、進め方にも見過ごせない問題がある。経産省は、費用総額の見通しを大詰めまで示さず、負担方法の議論を先行させた。こんな不透明なやり方で、国民への説明責任を果たしたと言えるだろうか。

 有識者会議だけでなく、並行して検討を進めている与党にも、なお異論が残っている。結論を急いで強引に押し切ることは許されない。