政府 TPP参加各国に国内手続き進めるよう働きかけへ

政府は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定が承認されたことを受けて、参加各国に対し、発効を目指して国内手続きを進めるよう粘り強く働きかけることにしています。ただ、アメリカのトランプ次期大統領が離脱を表明していることから、TPP協定の発効は極めて厳しい情勢で、各国の賛同が得られるかどうかが当面の焦点です。
TPP=環太平洋パートナーシップ協定は、9日、参議院本会議で可決、承認され、併せて関連法も可決、成立しました。

菅官房長官は記者会見で、「TPP協定は、基本的人権、法の支配といった基本的な価値を共有する国、地域が経済の絆を深め、その輪を広げていくことで、さらなる地域の安定を図るという戦略的意義もあり、さまざな機会を通じ意義を訴える」と述べました。

政府は、協定の取りまとめを担うニュージーランドに国内手続きを終えたことを通知するとともに、参加各国に対し、協定の発効を目指して国内手続きを進めるよう働きかけることにしています。

ただ、アメリカのトランプ次期大統領がTPP協定からの離脱を表明していることから、発効は極めて厳しい情勢で、各国の賛同が得られるかどうかが当面の焦点です。

一方、政府は、TPP協定には、多くの物品の関税の撤廃に加え、幅広い分野の貿易や投資などに関するルールが盛り込まれたことから、EU=ヨーロッパ連合とのEPA=経済連携協定や、中国などが参加するRCEP=東アジア地域包括的経済連携など、ほかの協定でも同様の水準が維持されるよう交渉を進めたい考えです。

また、政府は、去年取りまとめたTPP関連政策大綱に基づいた農家の経営安定化策などは、TPP協定が発効しなくても競争力の強化には必要だとして実施していく方針です。

TPP当てにしたビジネスは転換点

TPPを当てに動きだしたビジネスは、今、大きな転換点を迫られています。

東京・港区にあるコンサルティング会社では、TPP協定の発効で海外展開を強化する企業が増えると見込んで、この春、TPPに特化したアドバイスを行うサービスを始めました。

海外の現地法人の元代表など、いわば海外ビジネスのプロを月10万円程度で派遣し、小売りや食品メーカーなど、およそ100社に販路の開拓のコツなどをアドバイスしてきました。

しかし、ことし夏以降、アメリカ大統領選挙でトランプ、クリントン両候補からTPPに否定的な発言が相次いで報じられて以降、企業からの問い合わせは一気に減少し、今では全くないと言います。

会社が月2回程度開いていたTPPの説明会も、9月から取りやめました。

この会社では、ほかの貿易自由化の枠組みの実現に期待して、企業の海外進出を後押ししていく考えです。

コンサルティング会社「サイエスト」の李嘉章共同代表は「今は、TPPに依存した事業戦略を考えている企業はほとんどない。TPPに似た経済連携の仕組みだったり、2国間の自由貿易協定を現実的に進めていくことをビジネスの現場は求めている」と話しています。

海外展開強化の戦略変えない企業も

企業の中には、海外展開を強化する戦略は変えないというところもあります。

東京・品川区にある家具メーカー「ミネルバ」は、オーダーメードにこだわった高級家具の製造・販売を手がけています。

皇室や国会議事堂のいすの修理を請け負うなど、高い技術力が売りです。

去年からニューヨークとシンガポールに進出し、海外市場での売り上げを全体の3割にまで増やすことを目標にしています。

TPP協定が発効すれば、木製ソファーの各国の輸入関税が撤廃されるため、目標達成の追い風になると期待を寄せていました。

さらに、ソファーや、いすに使う本革の輸入にかかる最大30%の関税も段階的に引き下げられることも大きな魅力でした。

現在では国産より3倍ほど高い外国産の本革の仕入れ値が下がり、デザインの選択肢が増えると見込んでいたからです。

家具メーカーの宮本しげる社長は「特に革については、日本のメーカーを守るという目的で、現状の関税がだいぶ高いが、海外の革が安く入るようになるというメリットは感じていた」と話していました。

ただ、会社では、TPPの発効が見通せなくなっても海外展開の手を緩めないつもりです。

国内で安さを売りにした家具メーカーが急成長する中、活路は海外市場の開拓にあると見ているからです。

得意とする細かい作業によるデザイン力など付加価値を高め、今後、所得水準が上がっている東南アジアなどにも販路を広げたいと考えています。

宮本社長は「将来的にはアメリカだけではなく、アジア諸国や富裕層が増え続けている国や地域に可能性を感じている。国内のものづくり企業が生きていくためにも自由貿易であってほしい」と話しています。