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プルトニウム・ボーイ 作者:小林こころ
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 星空の下で1人の男性がふかふかのベッドで寝ている。

 この星空は本当の星空ではない。天井に映し出された偽物だ。

 偽物なのは星空だけではない。辺りに広がる夜の草原もまた壁に映し出されたものである。

 東側の壁が少し明るくなる。地平線から朝日が昇りつつあるのだ。
 優しい光が寝ている男性の顔を淡く照らす。男性の瞼が軽く動いた。

 壁の一部、窓程の大きさの範囲が薄く光り、その光は徐々に強くなった。
 強い光の中にオフィスの一角が現れた。1番目立っているのは椅子に座った女性の姿だ。
 黒髪を後ろで留め、質素だが清潔感のある服装をした美しい女性だ。

 偽の朝日とこの壁に現われたスクリーンによって部屋の中は明るくなっていた。
 ソファー、ベッド、テーブル。どれも高級そうだ。

『原太さん、朝です、起きて下さい』

 スクリーンの中の女性の声が部屋の中に響く。
 女性はそこで言葉を止めベッドの中の男性の反応を待った。
 男性はその期待に応えるかのように腕を少し動かす。

『朝ですよー! 起きてくださーい!』

 先程よりも声を大きく、強くする。
 原太という男性は抵抗するようにまたもや体を動かした。

 スクリーンの中の女性の視線が脇へ移り、何かを操作するような動作をした。
 すると部屋の中が一気に明るくなった。天井全体が照明となっていたのだ。
 その明るさに原太は苦しそうに目を擦った。

「んが……」

 原太は諦めたように掛け布団を跳ね除けて上半身を起こした。

『おはようございます原太さん、素敵な朝ですよ』

「おはよう麗奈さん」

 ベッドから足を出すと、床に置いてある体重計のような装置の上に立った。
 装置から何かを計測したような音が聞こえた。

『はい、今朝の計測は終わりました』

 原太は装置から降りる。まだ眠そうだ。

「放射線の量はどう? 爆発しそう?」

『いえ! いつもと大差ありません! それに例え量が多かったとしても爆発はしません!』

「冗談だよ、まあ寝起きで言うような事じゃなかったけど」

『す、すいません!』

 麗奈は今の仕事に就いてからまだ日が浅く、彼の性格を把握しきっていなかったのだ。

(前の人なら軽いジョークで返してくれただろうになぁ)

 原太はそう思ったが口には出さなかった。

『診断の結果、今日の朝食は卵料理になります』

「また卵? 昨日も卵だった、そのまた昨日も」

『いいじゃないですか卵、私は卵好きですよ』

「今朝は肉が食べたい気分なんだけどなぁ」

『駄目です! 今朝は卵です!』

「やれやれ、育てて肉にするしかないか」

『へ? いえあの、卵のうちに焼いてしまいますので無理ですよ』

(ホントに冗談のジョの字も知らない人だなぁ)

 原太は諦めたような溜め息を吐くとソファーに座った。
 テーブルの上にあったリモコンを取るとテレビへ向けて電源スイッチを入れる。
 リモコンの隣にはPCの無線キーボードが置いてある。

『原太さんは原子力施設で健康被害なく働くために生まれつき放射能を持つよう遺伝子改造された人間なのですが、私は酷い人権侵害だと思いますよぉ』

 コメンテーターが知りもの顔で語っている。
 原太は心の中で舌打ちをするとチャンネルを変える。殺人事件のニュースを読んでいたので入力切替ボタンを押し、PCモードに切り替えた。
 テーブルの上から無線キーボードを取り膝の上に乗せた。

「朝から小難しい話や気分が悪くなるニュースを読んで誰が得するんだろう? 一般のサラリーマンは朝から頭を重くするのが日課なのかな?」

 ネットで適当に暇潰しをしていると、壁の一部の色が淡く変わった。

『朝食ができましたよ』

 その一部の壁がズレ、空洞が現れた。
 空洞の中にはお盆に乗った朝食が入っている。

 原太がお盆を持ち上げると、とある事に気が付いた。

「目玉焼きと、納豆?」

『そうです! 納豆は畑の肉と言いますから!』

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