先月の米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選したことから、ネット上での「偽ニュース」の記事に関する議論が高まっている。偽ニュースは、大統領選期間中にソーシャル・ネットワークを通じて多くの人々に読まれ、選挙結果を左右した可能性があるともいわれる。フェイスブックやグーグルといったIT(情報技術)企業はそうした内容の投稿を防ぐ責任を負うべきではないかとの声もある。
この問題は今週、ぞっとするような新たな段階に達した。ノースカロライナ州に住む男が突撃銃を持ち、「コメット・ピン・ポン」ピザ店に押し入ったのだ。男はこのピザ店が小児性愛犯罪組織の拠点であるとする報道の真偽を「自ら確かめにきた」と主張した。
この「ピザゲート」として知られるようになった根拠のない告発はソーシャルメディアで知れ渡り、とりわけ、謀略説を唱える記事が多いとされるウェブサイト「インフォウォーズ」から拡散した。男は発砲したが警察に逮捕された。
幸いなことに、けが人はなかった。だが、この事件は、オンラインニュースの入り口となっているテクノロジー企業の役割がますます重要になっていることを浮き彫りにした。これらの企業は当初、腰が重かったが、最近は偽ニュース現象を真剣に捉えるようになっている兆候が見られる。
フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグ氏は、偽ニュースに「フラグ」(しるし)を立てて区別しやすくするツールを導入すると確言した。公開討論サイト「レディット」は先週、ピザゲートに関するスレッド(同一主題での一連のやりとり)を禁止した。また、ツイッターは最近、「オルトライト(ネット右翼)」のメンバーのアカウント数件を停止した。同社の規定で「特定の対象に絞った嫌がらせやハラスメントを禁じている」としている。
こうした動きは歓迎されるが、それだけでは決して十分ではない。ピザゲートの陰謀説は複数のサイトに広がっている可能性がある。ピザゲート陰謀説と題するツイッターのハッシュタグ(#)が存在する。一方、ユーチューブやフェイスブックのユーザーがピザゲートに関するビデオや、コメット・ピン・ポンとその店員に対する怒りに満ちた非難を投稿している。
ネット上から、意図的に誤解を招くことを狙った記事や、いい加減で危険をはらんだ謀略説を広める記事を排除するのは途方もない作業だが、テクノロジー企業には不可能ではあるまい。
フェイスブック、グーグル、マイクロソフト、ツイッターの各社は今週、テロリスト集団とそのシンパが投稿するメンバー勧誘用動画や処刑の画像などの過激なコンテンツを特定して削除する技術を共同開発すると発表した。欧州連合(EU)が、これらのテクノロジー企業はヘイトスピーチ(憎悪表現)の取り締まりを十分に行っていないと批判したことが背景にある。同様の連携が偽ニュースの拡散防止にも必要だ。