トランプ氏の事業と大統領職との間に利益相反が生じる可能性が問題視されている。英エコノミスト誌が、同氏の企業グループの資産価値と事業収益などを分析した。同氏が政治にビジネスを持ち込んだとしても、同グループに大きな利益はもたらさないとみられる。
インド、ムンバイ南部にある新興地区ウォルリで現在、新たな高級分譲マンション「トランプタワー」の建設が進んでいる。建築現場の様子は、他の建設現場と何ら変わるところはない。だが、そのマンションの広告案内──ドナルド・トランプ氏の写真のわきに黄金色の高層ビルがそびえ立つ──は「夢」を売っている。
そこに込められた顧客へのメッセージはこうだ。「トランプ氏は最高クラスのディールメーカー(ビジネスマン)です。世界の主要都市を股にかけ、今や彼に匹敵する取引をできる者はいません。まさにアメリカンドリームを実現した人物です」──。
■在任中に100億ドル稼ぐ?
ムンバイのトランプタワーを建設するインドの不動産開発大手ロドハは、少し前まで自社のウェブサイトに「次期米大統領、おめでとうございます」というメッセージを載せていた。だが、現在このメッセージは削除されている。トランプ氏が所有する企業グループの様々な事業と今後米大統領に就任して担う仕事との間に利益相反が生じる可能性が指摘され、大騒ぎになっているからだ。
トランプ氏は、自らを世界の大物実業家との伝説で飾り立ててきた。それに呼応するように、彼のグループの中核企業、米トランプオーガニゼーションが巨大な国際的縁故ネットワークに変貌するのでは、という疑念が今、怒りを伴いつつ膨れ上がっている。
米国民は、トランプ氏が世界各地で何十億ドルという規模のプロジェクトを展開しているとの記事や、彼が各国の実業家とにこやかに握手する写真、海外にあるトランプ氏の名前を冠した異国風の高層ビル(それらのビルはまるで米国的倫理観の退廃を象徴するようだ)の写真など、彼が様々な形で自分の成功をアピールするのを目の当たりにしてきた。
中道左派の米経済学者ポール・クルーグマン氏は、トランプ家がトランプ氏の大統領在職中に得る利益は100億ドル(約1兆1300億円)に上る可能性があると示唆した。
ただ、トランプ氏が常識では考えられない手法でビジネスを展開してきたことを考えると、そんなことが果たして可能なのか現時点で判断するのは時期尚早だ。実際に利益相反のリスクがあるのかどうかを理解するにはまず、同氏の会社を冷静にとらえる必要がある。
■実は並の不動産企業
トランプオーガニゼーションは、決して世界的に知られた企業ではない。そこそこの歴史を持つ、主に米国の不動産を扱う小さな企業にすぎない。もしトランプ一族が今後4年間で、もうひと財産築くつもりなら、このさえない企業を根本的に再構築する必要がある。
トランプ氏が政治と自分のビジネスとの境界を故意に曖昧にしようとしているのなら、その理由は、自分の会社を大いに発展させられる可能性があるからというより、むしろ脆弱な部分を抱えているからだと言うべきかもしれない。
トランプオーガニゼーションについての情報源は、トランプ氏が連邦選挙委員会に提出した財務開示文書以外、ほぼない。本誌(英エコノミスト)は、2015年に提出された文書を基に同氏が関係する170余りの法人の財務データを集計した。一部の資産についてはその価値と収入について幅のある数字しか記されていないため、本誌独自の推定や第三者機関による推定を加えた。
ではまず、規模から見てみよう。トランプ帝国の企業価値はざっと43億ドル(約4800億円)、年間総売上高は4億9000万ドル(約550億円)に上ると推定される。