ここから本文です

陛下のお言葉は皇太子夫妻に宛てたメッセージ

JBpress 12/7(水) 6:00配信

 ところが現憲法下の天皇は、元首ではなく「象徴」と位置づけられ、しかもその地位は「国民の総意」や「国会の議決」で決まることになっている。民主主義下の立憲君主は、皇后と一体でこそ「象徴」であるというお考えが、御陵からも伺えるようである。

 今上陛下が皇太子時代から、美智子妃と行動を共にされ、国民の理解を得るように努力されてきたのは、皇位や皇室の存続が投票や多数決などの近代民主主義の技術に左右されることへの危惧もあろう。

 しかし、それ以前に、日本国民に遺伝子的に伏流する君民一体こそが「象徴」の体現であるという強い思いからであるに違いない。

 すなわち、皇太子時代から妃を含めた天皇の在り方、そして務めが「象徴」には求められており、高齢や病気で「象徴」が果たせなくなった場合は「象徴」たり得ないというお考えも、こうしたところから自ずと出てくるお気持ちのように思えてならない。

■ 伝統の継承と近代化

 宗教学者の山折哲雄氏は、「皇位継承のあるべき姿」(『新潮45』2013年5月号)で、皇位継承では「伝統と近代の二重構造」が断絶しないようにしなければならないと述べる。

 そのことについては天皇が「お言葉」の中で、「伝統の継承者として、これを守り続ける責任に深く思いを致し、更に日々新たになる日本と世界の中にあって、日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています」と述べておられる。

 伝統をただ守り続けるというだけでは、日進月歩の世界で後れを取ってしまう。そこで、守りつつ、かつ創造する、この両者の調和をとりながら、日本社会の活性化につなげることを考え続けておいでになったということであろう。

 昭和天皇までは皇位継承者には生まれながらに帝王学が施された。育児をはじめ勉学でも親元を離れた特別の方法が採られてきた。しかし、近代化と民主主義思想の普及とともに、今上天皇以後は子育て、教育、結婚を含む多くが変わってしまった。

 しかし、天皇をはじめとする皇室に、国を思い、民を思う心が欠かせない点は、過去も未来も何ら変わりはない。

 陛下が「お言葉」で述べられたように、「天皇の務めとして何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ること」が大切である。これは主として宮中祭祀として行われる。

 山折哲雄氏は「皇室の正統性は宮中祭祀を担うことで担保されてきた。その祭祀をどうしても担えないのであれば、やはり正統性を主張することは難しくなる」(『文藝春秋』2013年6月号所収論文)と述べている。今上天皇は皇后ともども、宮中祭祀に努めて来られたことが知られている。

 祭祀は主として天皇が行われるが、慰霊や激励などの行幸では「見える化」が象徴の在り方という見本を確立してこられた今上陛下である。これができない、あるいは極端に少ない場合、国民が象徴として尊敬するであろうか。

 西尾幹二氏が『皇太子さまへのご忠言』を出版したのは8年前であった。その後、問題は解決されたのか、あるいは解決に向かって改善されたのか、知りたいのは筆者1人ではあるまい。

 西尾教授は加地伸行教授と『WiLL』2016年6月号で対談を行っている。見出しは「いま再び皇太子さまに諫言申し上げます」であるが、サブタイトルは「皇室に対する国民感情はもはや無関心から軽蔑に変わっているのでは?」となっている。

4/5ページ

最終更新:12/7(水) 6:00

JBpress

記事提供社からのご案内(外部サイト)

JBpress PremiumはJBp
ressが提供する有料会員サービスです。
新たな機能や特典を次々ご提供する“進化
するコンテンツ・サービス”を目指します。

Yahoo!ニュースからのお知らせ