国際・外交
安倍首相「真珠湾訪問」は、中国ロシアを牽制する絶妙の一手
日米ハワイ会談の正しい読み方

日露交渉にも影響アリ?

安倍晋三首相が12月26、27日にハワイを訪れ、オバマ米大統領と会談する。首相は「日米和解の価値を象徴する機会にしたい」と語り、マスコミもそのまま報じた。だが、それだけだろうか。私はロシア、中国との関係に注目する。

発表は突然だった。5日午後7時前、安倍首相が記者団の前に立って、真珠湾訪問について「犠牲者の慰霊のための訪問だ。二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという未来に向けた決意を示したい」と意図を説明した。

ハワイ訪問は、かねてから可能性が指摘されていた。首相の昭恵夫人が8月に真珠湾を訪れ、献花していた経過からも「いずれは首相本人も訪問するのではないか」という観測が強かった。問題はそのタイミングである。

 

15、16の両日にはロシアのプーチン大統領が訪日する。その直前に突然、意表を突く形で日米会談を発表したのは、ロシアを牽制する狙いもあったのではないか。

というのは、ここへきて「日ロ首脳会談で北方領土交渉の進展は難しい」という観測が強まっていたからだ。

たとえば、プーチン大統領は11月20日、ペルーのリマで会見し、平和条約締結後の歯舞、色丹2島返還を明記した1956年の日ソ共同宣言について「どのような根拠で、だれの主権の下に置かれ、どのような条件で返還するか書かれていない」と指摘している。

一方で、大統領は北方領土における日ロの共同経済活動について「首相と話し合った」と述べ、経済協力を優先したい意向を強くにじませている。

次いで大統領は12月2日、ロシアを訪問した岸田文雄外相との会談に2時間近くも遅刻したうえ、会談自体もわずか30分で終わらせた。通訳を交えているから、実質は双方が片道15分の会談だ。

首脳会談を控えた最後の意見調整だったのに、ほとんど「いまさら外相と相談する中身はない」と通告したも同然の扱いである。ロシア側の揺さぶり作戦という面もあるだろうが、冷たい雰囲気が漂っているのは間違いない。

プーチン大統領、強気の理由

大統領がここへ来て強硬姿勢に転じたのはなぜか。それは米国の次期大統領にトランプ氏が決まったことと無関係ではないだろう。なによりタイミングが重なっている。トランプ氏の当選は11月8日であり、その直後から大統領の強腰が目立っているのだ。

もっと重要なのは、トランプ氏がロシアに対して融和的姿勢を示している点である。具体的には、中東でIS(イスラム国)掃討のためにロシアと協力する。その一環で、トランプ氏はロシアが支援するシリアのアサド政権の存続も容認する考えを示唆している。

中東に限らず、トランプ氏が対ロ関係全般を見直すとなれば、日米欧によるクリミア侵攻を受けた対ロ経済制裁も緩和される可能性が出てくる。そうであれば、プーチン氏が日本の経済協力欲しさに北方領土問題で慌てて妥協する必要はない、と判断してもおかしくない。

北方領土交渉に暗雲が垂れ込めてきたタイミングで、安倍首相がオバマ大統領との会談を発表したのは、プーチン大統領にあらためて「日米同盟の結束はこれほど強固」と見せつける狙いがあったのではないか。

もっと言えば「トランプ政権だけを相手にしようとしても、そうはいかない。日米は結束している。ロシアが孤立を防ぐには日ロの関係改善も不可欠なのだ」という強烈なメッセージを放ったのである。

さて、そうなると注目されるのは中国の出方だ。